雨の日の美容室
髪を切った
海辺の美容室の前を通りがかったとき
行きたい行きたいと思いつつ
忙しい毎日に流されて
髪の毛のことなんてすっかり忘れていたことを思い出した。
ふと立ち寄ったらすぐに切ってくれると言ったので
そのまま中に入った。
大きなガラスの窓から薄曇りの海が見える。
今日は波もなく静かで
曇り空と海の境界が曖昧だ
「こんにちは!どんな感じにしますか?」
少し若くて元気な太陽みたいな女の子が顔を出した。
「あ、、えーっと、まず、もうこのボサボサをなんとかしたくて、、、」
「もう梅雨入りして、髪の毛大変ですよねー。
お手入れしやすいように整えましょうか?」
と、彼女はにっこり笑って
わたしのぼんやりしたオーダーを言葉にしてくれた
そんなささいなことなんだけど、
なんだかほっとして、
あとは委ねるだけでいいんだと思えた。
シャンプーも、程よい力加減で
会話も多すぎず少なすぎず、心地よかった
静かに波打つ海を見つめながら
なにかがほどけていく
ほどけてゆるんでいく中で
ようやく自分のカタチがみえてきた
ずいぶん、いろんなことを勝手に一人で背負っていたのかもしれない
勝手に完璧の基準を作っていたのかもしれない
自分で作った完璧の基準に押しつぶされて
疲れ切っていたのかもしれない
目指すべきが高いことは決して悪くない
だけど、一人で背負わなくてもいいんだろうな
疲れ切ってしまっては、
本当に大切なことをあっさり見逃してしまう
そのことの方が、よっぽど問題だ。
自分を大切に、周りを大切にしながら
高みを目指せる道は必ずあるはずなんだ
ザクザクと大胆に切り落とされていく髪の毛と一緒に
心の中の余分なことまで切り落とされていくようだった。
「後ろはこんな感じです。いかがですか?」
太陽みたいな彼女が再びわたしに話しかけたとき
鏡の中のわたしは、すっかり綺麗になっていた
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