冬の花が剪られて、《今月の歌篇》
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わが冬の細雪さえ遠ざかる2月の真午手のひらに落つ
あかぐろき鯨肉のごとコンテナの一台過ぎて暮れる冬の日
だれもないひざかりにただ忘れられ真っ赤な靴のヒールが黒い
凪を待つ労務者一同繋船のゆらぎに酔いどれているばかり
夜露照らされて窓いっぱいに光りの粒ばかりある夜半すぎれば
宿命の経験あらず老いてまだ詩をば書きたるへぼ詩人たち
大鳥の来る日来たらず一壜のインクぶちまけたような夜が訪れ
囚人(めしうど)のようだ、一輪咲いている冬の花さえいまは剪られて
帽子という一語は比喩だ、こうやって追い放たれた顔を匿う
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馬を駆る――青年ひとり過ぎ去って取り残されたおれはどうなる?
夢に視た、塚本邦雄その貌は決して眼鏡をかけてなかった
どうしてだろう?――花壜の埃ばかりが眼に留まる週末の夜
牛になりたい石になりたい願うなら黙って茎を握るがいいさ
アメリカン・ドリーム/または聖なる怪物の漣痕を探る旅
ムスリムの少女ひとりが傘をふってわれを殴打する安息日
支那国の貴人の夢の森のなか墓曝かるる回教徒かな
とどまってばかりいるかないつのまにきみへの手紙棄ててしまった
わらの犬――燃えあぐるとき人心の脆さをおもうことと告げたり
求人を手漁るばかり夜越えていつか軛にありつくまでは
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村を焼く白痴のように爛々と輝く交差点の消防車たち
摘みゆきて花のなまえを忘れたる男のひとりかくれんぼする
母という一語にまぎれ消え去るる一重瞼のなかの忍従
大父の死を待つ真昼叢に片足のない人形がある
遠く季節のなかにまぎれたくおもう鰥夫の夜濯がれる
friction/あるいはひとの群れにいてぼくはひとりとおもうせつなよ
莨火とビールのなかに夏がありやがて起これり水色革命
冬の蠅死を待つごとく手のひらのなかにあるのみ渇きつつあり
凪はるか地平にあふれしたたかに奪い去るのかこのおれでさえ
荒れ野にて、映画館にて、西部にて、冬の潮音を追いかけてゆく
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おもかげをかぜに与えて去ることのうれしいような寂しさばっかり
苦笑うぼくの愁いはやがて飛び展開図面のようにひろがる
それでなお消えてゆくしかないという声が聞えて来る桟橋へ
中空を区切る立方体笑い初雪のなか消え去るのを見る
海原をゆく幾千の鷗らの神の使いのような飛び方
飛び方を憶えたくなるコンテナのかげにひとり莨を吸えば
やり場なく憶えもなくて子供らが一瞬白く冬日に消える
からたちの花の雌蕊のなかに埋もれたくおもえばかつて逢えたひといて
雲沈むゆくままにしてぼくはぼくの愁いを日給袋にしたためるのみ
だれがまたぼくを呼ぶだろうか意識する脳髄のなかのかたむきなどを
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