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Stones alive complex(Fire quartz)

「この子は。
するかしないか迷ったら、しないタイプ。
そして・・・
ささやかにでも何かをやろうとする時、
誰しもそこに、ささやかな迷いは必ず付き物。
だとしたら・・・?」

インナーキッズの部屋を案内してくれている、この部屋の管理者であるファイアークォーツ。
彼女は、だとしたらどうなりますか?という眼差しを向けてくる。

ボクは答えた。

自分からは、なにもしないだろうね。

「普通、そうなりますよね」

インナーキッズの部屋は、天井や床は丹念に磨き上げてられていて。
原色の赤とか緑などの元気な配色が、上塗りしてあり。

天井窓からふんだんに漏れてくる陽の中。
移動式フックの付いた何十本もの鋼鉄の横柱へ、
分厚いガラスと落ち着きのある木目の板で作られた幾つものケースが、上と下とを固定されている。

その透明の金庫みたいな大型ケースの中に、
インナーキッズそれぞれは大切に保護されていた。
本質的には間違っている表現だけど、
ぴったりくる言葉で言うなら、彼らは人に宿る前の天使の幼虫だ。


迷ったらしないタイプの子は、
その中のひとつのケースにいて。

ケースの奥の方を向き、
背中だけをこちらへ見せてしゃがんでいる。

たとえカミナリが鳴ったと同時にスッポンに噛まれたとしても!
なんのアピールも絶対してやらないぞ!
と、いうムードの、強烈なアピールが。
その丸まった背中から無数の槍となってこっちへ飛んできて、刺さる。

なるほどねえ。と、ボクは納得する。

ファイアークォーツは、ボクを導き移動した。

「次の子は。するかしないか迷ったら、するタイプ。
そして、
何かをやろうとする時、迷いは付き物。
だとしたら・・・?」

色々と迷うけど、結局するよね。

自分を見つめているボクらに気がつくと、次のケースのその子は。
戸惑うような表情を浮かべた後、すぐにっこり微笑んでトコトコ近づいてきた。

「アナタは誰?ねえ、誰なの?」

ケースのガラスをはさんで、愛想よくアピールしてくる。

「安心して。ボクは危険人物じゃないよ」
そう声をかけて微笑みかえしながらボクは。
危険人物じゃないとアピールすればするほど、逆に危険人物ぽくなるな・・・と思った。

「次の子は。
するかしないか迷う前に、するタイプ。
そして、
何かをやろうとする時、迷いは付き物。
だとしたら・・・?」

迷うことなく、するね。
てか、これまで迷ったことなどないだろうね。

その子はすでに、ケースのウインドウにほっぺたを押し付け!
こっちを瞬きもせず見つめている・・・

ケースを激しく叩き、ウオォォー!とボクらを呼んだ。

『アタシは、こっちの世界にやって来た!
アタシは、この世界の隅々まで飛び回る!
アタシは、生き尽くし!
アタシは、完璧に燃え尽き!
アタシは、あっちへ還る!
そして、アタシは、また蘇り!やってくる!!
アタシを、見なさい!
瞬きせず、まっすぐにアタシを!!』

案内のファイアークォーツは、ちょっとだけ困った顔になり、
はいはいとあやす様にケースを優しく撫でる。

当然だが、迷うことなくやる子は、
それで強烈なアピールを止めないどころか、
さらにエスカレートしてケースを叩き、叫び続ける。

「この子、勢いがあるでしょ?!」

勢いがあるね!
もしかしたら、勢いだけかもしれないけど・・・
見ているこっちもなんだか元気になるね!いいね!
ただ。
自己アピールの言葉は超ポジティブなんだけど、
アピールしてる内容は、マッドマックスに出てくるウォーボーイズとほぼ一緒のような・・・

まだまだたくさんケースは並んでいたが、
ここで、ファイアークォーツは歩みを止めた。

「ご覧の通り。
インナーキッズの種類は無数に存在します。
それぞれが幾種類にも分岐した理由は、それぞれにちゃんとあるのですが、今は割愛するとして。
代表的な種類はご案内した、以上の三種ですね」

カテゴリー分けは分かったけれど、
ふとした疑問が浮かんだ。
それを尋ねてみる。

するかしないか迷う前にしないタイプ、ってゆうのは、いないの?

ファイアークォーツは、鋭い質問ですねとうなづき。

「もし、いたとしても。
この部屋へ、来れるはずがないでしょう?
そのタイプは誰にも発見されないところ、
つまりこの世界ではないところに、いるはずですよ。
理論的には存在するはずなのですが、
当然ながら、これまで発見されたことはありません」

ひとり、人里離れた山奥でじっと瞑想にふける仙人のイメージだろうか・・・?

ボクはひとまず、ふう~ん程度に納得した。

そこからすぐ、別の疑問が浮かんだ。

じゃあ。
それと似て非なる、さっきの迷ったらしないタイプは、なぜここにいるの?

最初の部屋の子を指さす。

ファイアークォーツはお腹を押さえて爆笑し。

「その理由は、簡単。
迷ったらしないぞ!という後ろ向きな自己アピールが裏目に出て。
それがまた、かなり目立ちますので、
我々にあっけなく発見されてしまい。
ここへ連れてこられるのですよ・・・」

ああ・・・
実はアピール力だけが強いタイプ・・・


(おわり)

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