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Stones alive complex (Red Agate)

キャリーオーバーなサマーヒートに焼かれるゴッナヤCityは、そこへ迷い込む外来人の脳味噌を八丁と煮込んでゆく巨大な都市だ。

12年後に、この惑星が氷に覆われる頃。
ゴッサムと名称を変えられるほど発展を遂げる潜在ポテンシャルありありな、このシティのこの季節は。
その地下街を歩けば、体温調節がますます難儀になる。

心臓が三回脈打つたびに、地上への連絡通路からなだれ込んでくる外気の熱風と、ここロードトゥサン地下街を全力で満たそうとする必死の冷房が交互に皮膚へとうちつけられる。

天井に無数に並んだLED灯の光で照らし出されてる無機質なテナント群だけは、社交辞令的に涼し気だ。

ミフシ駅から乗った地下鉄をゴッナヤ駅で降りたとたんから、EBフリヤ人たちの雑踏に押し流されてきた。

初めて見る者には、彼らは生粋のミッドガルドの人間の群れに見えてるだろう。フライをフリヤと北欧なまりで発音する以外は。

何千というEBフリヤ人が、買い物のため、EBを捕食するため、あるいは単に涼を求めてこのロードトゥサン地下街へと日々なだれ込む。

『式麺、冷えてます』

そんな張り紙が、あちこちに目立つようになってきた。

ゴッナヤの北側にあるエサカ地区へ近づきつつあるからだ。

式麺とEB。
このふたつのソウルフードはゴッナヤの者にとっては切っても切れない因果関係にある。

頭が虎、身体が魚の姿をしたこの地区特産の式神のEBは、短冊状に平たく伸ばされたウドンの平面へ白い澱粉で描きこまれた呪縛式でなければ捕獲できない。それを描き込むために、式麺はわざわざ平たくうってある。この秘密はまだ誰も知らない。今思いついたばかりだからだ。

初めてその式麺を見る者には、白いウドンの上へ白い澱粉でみっちり描かれた呪縛の術式はまったく見えないだろう。
もっとも、誰が何度見てもまったく見えないのだが。

式麺を一式買い求める。
外来人の自分であるけれども、出張の土産話にEBを釣ってみよう。

エサカ地区の中心部まで進み、そこから地上へ登る。

連絡通路を出たとこに広がる中京公園には、巨大なテレビジョン塔がそびえ立つ。

このテレビジョン塔から発せられる「ギガよりもテラよりも大出力のデラ電波」が主にゴッナヤ湾で生息しているEBをおびき寄せているのだ。

西日を乱反射した中京公園の噴水が冷たい蒸気を噴霧して、物憂げに集まってるEBハンターたちの熱気を冷ましている。

テレビジョン塔のてっぺんはもうすでに、もやもやと赤く染まり始めていた。

そこに、西へ傾いた陽の方角から泳いできた精神象徴体生物EBの気配をでら感じる。

そのもやもやは、ゆっくりと10分の1キロ道路に沿って広がろうとしていた。
デラ電波をたらふく食ったらEBの依り代である徳川家康公の天守閣へと回遊してゆくつもりだ。
むざむざと逃すわけにはいかん。その前に捕らえて天ぷらに揚げてやる!
式麺をすすり、気合を入れ直した!

「出長先のヒートアイランドにうなされながらええかげんな設定で書き散らかしてるこんなローカルネタの話!
我が親愛なるインスタフォロワー約五千人中、ざっぱな見積もりをすれば、その中の30人弱くらいしか何言ってんだか分からんだろうけども!
でら構わず、推して参る!」

薄く開けた唇から口にふくんだ式麺を、テレビジョン塔におびき寄せられてきたEBへ向けぷるるるると飛ばす!

あちこちのEBハンターの口からいっせいに飛ばされた式麺は、フェリーへ投げられる紙テープのようにどこまでもねばったコシで伸びてゆき、EBを絡めて捕まえてゆく!

もがくEBが小倉を吐いても、式麺はどこまでも伸びるぞ世界の尾張まで!

(おわり)

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