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Stones alive complex (Chrysocolla)

日を追うごとに、平坦化されつつある国体の情景。

その在り方を睨み続けて酷使された瞳孔が、心に映る映像のコントラストいわゆる判断力なども含めたすべてのフォーカスを甘くしてしまう。

瞳孔の酷使というよりは、瞳孔の凝結と表現すべきだろうか。

スマホへ半日弱も集中していた焦点を外し、眉間をぎゅっとつまむ。

そのまま空いた方の手で。
トートバッグの中の大きめのポーチの中の小さめのポーチの中のプラスチックケースの中の点眼薬を探った。
フォルダー分けが深すぎて、必要なファイルをすぐには取り出せなくなったPCハードディスク内部と、同じ有様になっている。
人のやる事は一事が万事だ。

フォルダーにつける名称も、抽象と具象のバランスが難しい。
寄って見るか、引いて見るか、である。

恐ろしく抽象化された『あれ』というフォルダー名称を付けたことがある。
抽象化というよりは恐ろしく個人化された名称と表現すべきかもしれない。

さて。
トートバッグ内部の情勢をかき回した己の手により、混迷の極みにした挙句に取り出せた点眼薬は、半分もすでに使っているのだが、その正体を確かめたことがこれまでにない。

今さらに問おう。

おぬしはいったい・・・何者なのだ?

霞む目をさらに酷使することになるが。
青緑のケース裏側にシールされたアリの行列ほどに細かなスペック表示を、初めて読んでみる。

主成分としては、
塩酸テトラヒドロゾリン・・・

・・・

頬杖をついていた机の周囲の空気が、ぴしりと一瞬で止まった。

「ゾリン・・・!!」

思わずその語尾を復唱してしまう。

これがもし。
テトラヒドリンくらいの気弱な音圧ならば「ほぅ、なるほどね」程度の何を納得したのか曖昧極まる浅い感嘆で済ませてしまい、すみやかにケースのキャップを外して目にさし、状況は呆気なく収束していたことだろう。

しかし、ここに来て事態は急変した。
ゾリンと挑発されて背筋を正す!

この成分は!
「塩酸」といきなり言い切る暴力的なイメージを放った王冠で威圧してからに、剛力だけの輩ではない秘めた技巧派であることをほのめかす「テトラ」と不敵につぶやき。
「ヒド~ロ~」と、ぶらり戦法のジャブでたじろがせた直後のとどめに、ゾリーンッ!と斬りあげるアッパーカットを撃ってきたのだ!
いかなるHIGH & LOWな武者なのか!まだ観てないけども!

塩酸テトラヒドロゾリン!

ギラギラネームにも程がある!!

本末転倒にして霞んだ目をごしごし擦り、
その成分リストに従えた配下のものどものネームも読んでみる。

ネオスチグミンメチル硫酸塩。
アラントイン。
グリチルリチン酸ニカリウム。

なんだ!
この世紀末四天王感はっっっ!!

無駄に強いぞ。
こいつらは。
とりあえず名前だけは。

唯一あっさりな音が際立ってるアラントインは絶対に、ひょろっとした風貌でメガネをかけた策謀家に違いない。
ネオスなんとかメチルは剛力オンリーキャラのようだ。硫酸塩の甲冑で分かる。
グリチルリチンは物語の中盤で必ず主君を裏切り、逃亡するな。必ずな。リチンの余韻はチキンぽい生き様の迷いを表している。
名は体を表す。どことなく。

「クーゲルシュライバー・・・」

無意識に口から、こぼれ出す。
ふと思い出した無駄にかっこいい単語である。
ドイツ語でボールペンのことだ。
ちなみに他に知ってるドイツ語は、
「グーテンターク」と「ジークハイル」
この点眼薬の話とは、なんらの関係もないこの文節。

まあ、よかろう。
こやつの正体を正確に把握できたところでようやく、世紀末四天王成分配合点眼薬のキャップを覚悟を決めて外せるっ!!

( •̀ᄇ• ́)ﻭ

(おわり)

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