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10年に一度の傑作ドラマ『幽婚』

現在、ユーチューブにドラマ『幽婚』がアップされています。       これまで単発ドラマは500本以上観ていますが、その中でもベスト3に入る作品。10年に一度出るか出ないかの傑作ですので、騙されたと思ってぜひ観てください。脚本、演出、撮影、音楽、美術等、どれもドラマとしては傑出しています。


初放映は、1998年10月25日、事前の宣伝もなく昼間にひっそりと放映されたので、当時、リアルタイムで観た人はごく少ないと思います。

高視聴率を望めない日曜日午後4時からの放映という事もあり、どうせ穴埋めドラマだろうとたかをくくって期待せずに観ていたら、これがとんでもない傑作で観終わってから唖然としました。
オリジナル脚本が市川森一だったこともラストのスタッフ・キャストのテロップで知り、たまたまビデオに録画しておいて心底よかったと思いました。

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その後、口コミでじわじわと評判が広まるも長らく「幻の名作」状態でし
たが、近年、CSで再放映されたことも手伝ってタイムスリップ映画の名作『ある日どこかで』(こちらも初公開時は全くヒットせず)と同じようなカルト的人気のある作品になっています。
                                  題名からは昨年、NHKで完全ドラマ化された『牡丹灯篭』や映画『チャイニーズ・ゴースト・ストーリーズ』のような幽霊との怪奇な恋物語を連想するかもしれませんが、コワイ話では全くなく、あの世とこの世の間(はざま)の幽冥界における男女の一夜の触れ合いを美しく幻想的に描いたファンタジードラマです。

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作品全体は所謂「額縁構造」になっていて、前後の現実界パートと中間部の幻想パートをつなぐ伏線にも工夫が凝らされています。冒頭・中間・終盤と3回結婚式の場面が出て来ますが、ラストで幻想パートでの結婚式と現実界の結婚式がつながるどんでん返し(?)の趣向も見事に決まっていて、深い余韻を残します。

また、作品の構成も現実世界→幻想世界→主人公の見た夢のようでもある「幽冥界」と三重構造になっていて、観る者が違和感なく自然に幻想世界に入り込めるよう工夫が凝らされているのも優れた点です。

現実界と幻想世界との境界として日本三大秘境のひとつ「祖谷の吊橋かずら橋」が使われているのも、いかにもそれらしくて効果抜群でした。    幻想パートではカラーの色調を変える撮影やバックに流れる切なくも美しい音楽も素晴らしいので、ぜひ注目してください。

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主演は役所広司(孝行)と寺島しのぶ(佐和)。
二人ともこれ以上はないと思えるほどの名演ですが、特に幽冥界の滝つぼでの寺島しのぶの体当たりの身体を張った演技にはびっくりしました。

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夜明け前にはあの世に帰らなければならない佐和(寺島しのぶ)に対する孝行の思いは、「俺は死人と歩いている。僅かにだが、そのことは分かっていた。ただ、なぜか恐れはなかった。恐れよりも言いようのない切なさに胸が締め付けられる思いだった。この世にいない者に愛しさを感じ始めている自分への哀しみ。」という台詞に凝縮されていて、観る者の感情を揺さぶります。

そして、佐和の孝行への「わたしを忘れないで。一夜(ひとよ)も一生も同じ人の夢、過ぎ去ればみんな思い出。わたしを忘れないで。あなたの中でわたしは生きたい。」という一編の詩のような美しい台詞もいつまでも心に残ります。

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平成10年度文化庁芸術祭優秀賞、ギャラクシー賞優秀賞受賞作品。

市川森一の脚本作品ベスト10は、以下の通り。
①『幽婚』
② 『もどり橋』(こちらも橋を渡ると死者が蘇ったという京都の「一条戻橋
伝説」と『夕鶴』をモチーフにした幻想ドラマの傑作でした。)
③『君にささげる歌』(東芝日曜解行)                 ④『黄色い涙』 (原作永島慎二) 銀河テレビ小説シリーズ
⑤ 映画『異人たちとの夏』(原作山田太一 監督大林宣彦)
⑥『 ソープ嬢モモ子シリーズ 』(主演竹下恵子)
⑦『バースデー・カード』(東芝日曜劇場)
⑧『淋しいのはお前だけじゃない』
⑨『幻のぶどう園』
⑩『港町純情シネマ』
次『傷だらけの天使』
次『 おいね 父の名はシーボルト 』

『君にささげる歌』についてはこちらで少し触れています。

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