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マンガノート① 萩尾望都の最高傑作『半神』

1970年代に『ポーの一族』や『トーマの心臓』で少女マンガの新たな地平を切り開いた作者が、1980年代にマンガ表現を一気に芸術の域にまで高めた記念碑的作品。

腰のあたりでつながった結合双生児姉妹ユージーとユーシー。      知的障害があり、立って歩くことも出来ないが、美しく天真爛漫で誰からも愛されるユーシー。                         一方、知的能力は高いが栄養をユーシーに吸い取られ、皮膚は干からび髪も抜け落ちて見る影もない姉ユージー。

一生懸命面倒を見ているのに、外見的容姿で常に妹と比較されるユージーには、コンプレックスと共に妹を憎む気持ちも。 

13歳になったとき、ついにユージーの体力に限界が訪れ、このままでは二人とも助からないと医師から告げられた両親は、ついに二人の分離手術を決断するのですが・・・。

この作品には様々な表現方法が用いられていますが、特に光と影、美と醜、幸と不幸、喜びとと悲しみ、愛と憎しみ、喪失と再生、どんでん返しなどの「対比」の技法がすさまじい効果を発揮しています。         

しかも対比されたもの同士はコインの裏表、一方があるからこそ片方も存在し得る「相互依存」の関係でもあるのです。 

結末に向かって収斂して行く伏線の回収のされ方も鮮やかです。   

そして簡潔な台詞の力。                       初めてラストの一編の詩のようなモノローグを読んだときは、思わず鳥肌が立ちました。

ふと 鏡の中に
あんなにきらっていた妹の姿を みつける
無知で美しく 歩くこともしゃべることも ほとんどできなかった妹
わたしはわからなくなる
だれ? あれは
やせて死んでいった妹は
ひきはなされた半身は
あれはわたし
わたしだったの?
じゃ なに いまのわたしは?
わたしの半身は あのとき死んでしまったの?             

愛よりももっと深く愛していたよ おまえを
憎しみもかなわぬほどに憎んでいたよ おまえを
わたしに重なる影――
わたしの神――
こんな夜は 涙が止まらない

わずか16ページの短編ですが、読み返すたびに今でも新たな発見と感動があります。


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