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映画ノート③ 三島由紀夫が剥製人形役を演じた耽美的カルト映画『黒蜥蜴』

原作は、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズの一編を三島由紀夫が戯曲にしたもの。

この作品は、基本的に伝説の「シスターボーイ」美輪明宏を観る映画なので当然社会性や思想性などの類はゼロですが、そこは、三島由紀夫+深作欣二ですから単なる探偵映画には終わらず、乱歩のエログロ猟奇趣味に耽美的かつ退廃的な味付けを施した カルト・ムービーに仕上がっていました。

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シャンソン「メケメケ」や自ら作詞作曲した労働歌「ヨイトマケの唄」でスターになった美輪明宏は、当時32歳。                映画への出演経験も多いせいか、歌手にしてはなかなかの演技力です。

美貌の女盗賊黒蜥蜴に扮した美輪は、江波杏子に夏木マリと金井克子(特に髪型)を混ぜたような感じ。                       欲を言えば、金井克子風より上の写真のようなオスカル風髪形のほうがより妖艶な美しさが引き立つので、全編オスカル風で通して欲しかったな、と。                                  黒蜥蜴が男に化ける短いシーンがあるのですが、三輪の男装?姿も逆「宝塚歌劇」のような凛々しさがあって非常に魅力的です。

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歌舞伎でもそうですが、いくら厚化粧で入念に女装しても、はしばしで「男」が出てしまい興ざめすることが多いのです。           しかし、「黒蜥蜴」はそうした違和感があまりなく、最後まで観ることができました。

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木村功の明智小五郎が意外にはまり役で、こんな芝居も出来るんだとちょっと感心。                              ラストはそれまでと打って変わって急にしんみりした抒情的なシーンになりますが、このあたりは木村功の独壇場で、こういう演技をやらせるとさすがにうまいです。

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松岡きっこ演じる、黒蜥蜴に誘拐される深窓の令嬢役も清楚な感じでよかったです。

この映画の耽美的・退廃的味付けに大いに貢献しているのが、タイトルバックをはじめ随所に出てくるビアズレーのイラスト。
映画の中にも明らかにビアズレーの「サロメ」を意識した構図が観られます。

僅か25歳で夭折したオーブリー・ビアズレーは、世紀末ヴィクトリア朝美術を代表する挿絵画家で、日本の画家やイラストレーターにも大きな影響を与えました。

最近はそれほどでもありませんが、特にこの映画が作られた1960年代末頃の日本ではカルト的人気があり、高価なビアズレー画集や澁澤龍彦の 「ビアズレー 美神の館」などの関連書籍が何冊も出版されていました。

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この映画の特別ゲストが、最近、没後50年で再び関心が高まっている三島由紀夫。
黒蜥蜴が剥製人形にされた男にキスする問題のシーンに出演。当時、美輪とただならぬ関係にあったと言われる三島 が (一方的に美輪を好きだったという説もあり) 、熱望してその人形役をやらせてもらった由。

まさしく「美女」と野獣の構図で、この映画の中で最も猟奇的かつ退廃的シーンであることは間違いないものの、撮影がいまいちである事と苦虫を噛みつぶしたような三島の「変顔」が邪魔をして、残念ながらこの部分は「耽美的領域」まで到達できていない印象。

ただし、これは、三島の責任ではありませんよ。            演技指導をした監督の責任です。

黒蜥蜴が長々と人形の説明をしている間、瞬きもせずじっと静止しているのはさぞかし大変だったのでは。                    でも、その甲斐あって、このシーンは三島の全出演作品中、最高の「名演」(怪演)になったと言っても過言ではないでしょう。              何しろ相手があこがれの三輪さんですからね。それは、熱も入ろうというもの。

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「黒蜥蜴」で自らのマッチョな肉体を披露した極右ナショナリスト三島由紀夫は、この映画の2年後、自衛隊市ヶ谷駐屯地でクーデターを呼びかけた末に割腹自殺するという衝撃的な事件を起こすのですが、それはまた別の話。

なお、「黒蜥蜴」は、1962年の井上梅次監督作が最初の映画化。
京マチ子の黒蜥蜴もぜひ観てみたいものです。




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