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いらないならいらないでいいのだ


職場での私の重要任務の1つに、“誰かが買ってきたお土産(お菓子)を配る”というのがある。


私の背中左斜め後ろの席の男性。その人(仮にSさん)は昨年の春にうちの職場にやって来た。今までいろいろな職を転々としてきた(らしい)ため、うちの職場のような仕事はほぼ初めて。にもかかわらず、やたらと態度がデカい。うちの職場には定年後時短で働いているベテランさんが少なくない。毎日いなくても週に何日か出勤し、人の何倍もの仕事をこなしている。その中の一人は私と向かい合わせの席に座っていてSさんと同じ仕事に携わっているのだが、S(ここからは呼び捨て)はそのベテランさんにいつも上から目線で指示する。ベテランさんは余計なことを言わない寡黙な方で、

「はい、わかりました」
と応えている。自分より歳上で明らかに自分より仕事が出来る人に対しての敬意というものを知らないのでしょうか?知ってたとしたら、そういう言い方はしないのが普通ではないでしょうか?

と教えてあげない私。
だって、言っても聞かないから。

最初の頃は私が言えることは言うようにしていた。振り分けられた仕事の内容をよく理解していないのに誰かに聞くことをせず自分の勝手な解釈で間違ったことをやりそうな場面が何度かあって、私は“そっと”軌道修正をしていた。

「Sさん、今日会議ですよね」
「集合は何時でした?あら、だったらもう行った方がいいですよ」
「あぁ、そういう時は〇〇さんに相談した方がいいかもですね」
「そういえば〇〇さんから頼まれてた電話って、もうされました?」

‥‥

昨年の秋に職場で大きなイベントがあった。その日のSは同僚の補助をするポジションだったのがその人が急に入院したためSが後を任された。イベントの前日になってまだ、Sが任されたブースで当日使うドライアイスが調達出来ていないことを私は知った。

どうやら入院した人が手配していたのが、確認の電話に出たSが余計なことを言ってしまったために断られたらしい。

「言っちゃいけないって言っといてくれないと。私、正直に答えただけなのに‥」
って、いやいや、人のせいかよ。大体において、あなたは余計なことを言いがちな傾向にありますよ、と私は心の中で呟く。

一緒に話を聞いていた同僚と私は
「‥で、どうするんですか?」

「あぁまぁ、調べたら割と近くに売ってるとこがあるみたいで夕方5時までに行けば売ってもらえるみたいです」

時計を見たら2時すぎ。

「そうは言っても、早めに行っといた方がいいのでは?場所、分かってるの?」
「個人に、ホントに売ってもらえるかどうか先に確認したら?」
「代金がいくらぐらいかわかってるの?とりあえず立て替えて払わないといけないだろうし」
「今日買って明日のイベントまでどうやって保存するの?」

私たちのほうがプチパニックだ。私たちの心配をよそに、Sはのらりくらり。

「HPを見たら売ってくれるみたいに書いてあります」
「値段も載ってました」
「そうだ、場所をHPで確認しときましょうかね」とPCを開く。

その様子を見て、私たちのイライラは爆発した。

「だから早く、行くか電話するかしなさいってば」

私たちは2人同時に叫んでいた。私たちはあなたと雑談したいわけじゃないのよ。明日のイベントで皆が困るのが困るのよ。屁理屈はいいから早く行け。声に出さないまでも私たちの叫びにはそういう気持ちがこもっていた。しかも、そのドライアイスを使ってアイスクリームを作る実験をするらしくそこで出来たアイスを来場者に配るという。

「え、待って待って。それ許可取ってる?」
「さぁ?多分ゲリラ的にやろう、みたいな感じじゃないですか」
「いやそれ、ダメだから。飲食は保健所に届けないといけないやつだから」
「まあ、私は要るものを揃えるだけの役なんで」


要るものを揃えるだけ?いや、それも出来とらんじゃん。
(‥‥後で聞いたら、結局アイスを配ったらしい。)
良かれと思って助言したところで自論を展開されて結局私の方がモヤモヤしておしまい。そんなならもう勝手にすれば?と、心の中で毒づく。

Sは大体いつも自席にいる。暇か?暇なのか?自席に座ってPCに向かっていても背中で皆の会話を聞いている。その証拠に、私たち女子同士の会話に突然入ってくる。私と上司の雑談に突然入ってくる。そして大体においてトンチンカンな話を、さも自慢げに披露する。


最初の頃は私も「へぇーそうなんですね」なんて相槌うって、心の中では「この人、何言ってんの?」なんて思ってたけど、最近はSが横から入ってきたら私はその会話からそっと抜ける。私たちの会話に入ってこないでほしいって気持ちが大きい。それに大体知ったかぶりで知識を披露するか、全然的外れなことを言うか、そのどっちかだ。どっちも私は堪えられない。多分周りから見たら私はものすごく感じが悪い人だと思うけど、Sに対してはそれを我慢する必要性も感じなくなった。

ここでやっとお土産の話。ある日上司がチョコレートをくれた。デパ地下で買ったみたいな、綺麗な箱に入ったチョコレート。「貰いものだけどよかったら皆で食べて」ざっと数えたら20数個。個包装はしていなかったので箱ごと持って回って、好きなものを取ってもらった。Sの番がきた。

「辛いのありますか。甘々は苦手なんで」
「チョコレートなんで、辛いのなんてありませんけど‥」
「だったらこれいただきます」
そう言って、一番綺麗なチョコレートを取った。

別の日。お客様からいただいたクッキーの詰め合わせ。Sはいつもの「甘々じゃないやつ」と言いつつ、一番甘くて美味しそうなやつを取った。
「それ、多分この中で一番甘いと思いますけど」
「まあ普段甘いものは食べないので普段摂取できないものを、ということで」


はぁ?なんかいちいち腹立つ。なんなん?欲しいん?欲しくないん?
いらないならいらないって言えばいい。欲しくないなら遠慮して欲しい。
欲しいならもっと素直に喜んで欲しい。
お菓子に謝れ。嫌々食べてます、みたいな態度を謝れ。

と、これまた心の中で毒づく。私だけがどんどん嫌な人になってくのが辛い。


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