見出し画像

*読了3冊目*『ハヤブサ消防団』

『ハヤブサ消防団』池井戸潤著 を読んだ。

作者の池井戸潤さんが大人気の作家さんであることは知っている。
が、作品を読むのはこれが初めてだった。
ドラマ化や映画化されている作品がたくさんあることも知っているが、それらも見たことが無い。
というわけで、初・池井戸潤である。

まず、とても面白かった。
最初の方でひたすら繰り広げられる田舎暮らしの描写のシーンも楽しく読んだ。
私自身が田舎の出であるので、地元の消防団や、神社の掃除当番や、同じ名字がやたらと多いので下の名前で呼び合うことや、プライバシーはほぼ無いことなど、すべて「そうそう!」とうなずきながら読んだ。

「へぼ」が出てきた時になぜか「これは実話だ!」と確信した。
作者が田舎暮らしを書いてみたくて資料を集めて書いたのではなく、これらはすべて作者の実体験、つまり故郷の話だと思ったのである。
主軸はミステリーなんだけれども、半分くらいは田舎の生々しい生活描写に割かれている。それは作者が愛した懐かしい景色をここに焼き付けようとしているからだろうと。

そんなわけで、私は前半から楽しく読んでいたのだが、途中で新興宗教が絡んで来たところから俄然前のめりになってワクワクした。
そこから先は早く続きが知りたくて一気呵成に読み上げた。
あー!面白かった!!

一番良かったのは主人公のカラーが良い意味で無色透明だったこと。
ほとんど自己主張せず、どんどん周りに巻かれていくタイプで、ずっと都会に住んでいた割にはすんなりと田舎の人間関係に溶け込んでいく。
一種の触媒のような存在で、彼がスーッと入って来てここに住み着いたことにより、町は劇的に変化していく。(真実の姿をさらけ出していく)

最後気になったのは、事件が解決した後も人々の信仰は続いていくわけで。
いったい何が彼らの心の隙間を埋められるのかということ。
こんなに人間関係が密な田舎にあっても、人は寂しさと孤独を抱えて生きていて、心の拠り所となる場所を強く欲している。

本を読み終えてから知ったのだが、この小説は池井戸潤さんの作品群の中では異色の作品だったらしい。
いつもこういったミステリーを書いていらっしゃる方ではなかったのですね。
でも、物語を読むというのは(文中にも出てくるように)結局はその作者の「本質を見極める眼力。人物のあり様を見抜く力」を堪能する嗜みだと思っている。
よってそれが企業物であれ恋愛ものであれミステリーであれ、この眼力のある人が書いたものはすべて面白いということなんだと思う。







この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?