読書感想「ひきこもりの弟だった」

お久しぶりです。

気付けば一か月ぶりですね。投稿が出来ず申し訳ないです。

読んでくれている方がどれ程いらっしゃるのかは分かりませんが、読書感想を送ります。


今回は葦舟ナツさんの「ひきこもりの弟だった」です。

個人的に誰かのデビュー作を読むのが好きなのですが、この作品も随分と前から気にかけていたうちの一つです。

ひきこもりの兄と、そんな兄を溺愛する母と、遊び半分で自分たちを生んで消えた父の存在。この三つを何十年に渡って重荷として背負い続けてきた主人公・啓太が、駅で出会った女性・千草から受けた三つの質問をきっかけに、彼女との結婚を決め、やがて本物の愛の形に向き合い始めるという話です。

読後は、かなりずっしりとした、重たく鈍い衝撃を受けました。

千草が啓太にした三つの質問。

「彼女はいますか」

「煙草は吸いますか」

「あなたは、子供が欲しいと思えない人ですか」

啓太はこれまでの人生上、家族とは、「家族」という切っても切れない鎖で結ばれた関係で、そんな状況を変えようとしても、誰も、自分すらも変えられないことを痛いほど知っていました。

だからこそ、自分が憎いと思ってきた家族の血が混じっているからこそ、子供が出来てたとしても素直に愛することができないことを恐れていました。

この気持ちは、なんとなく理解できました。

少なからず自分の血が混じっていると考えると、まるで鏡でも見せられているような気分になる。だから、自分の嫌なところや、啓太で例えるなら、ひきこもりの兄や、親という役に酔う母、性欲塗れの父の面影を思い出さずにはいられない。同時に、自分もあんな奴らと一緒になりたくないと強く感じるのかもしれません。

そして千草も、親の都合で生まれてしまった子供でした。

故に、子供が欲しいと思えない、という共通の感情によって、好きでも愛でもなく、二人は結ばれました。

しかし、千草は啓太との日々に、少しずつ幸せを見出します。

啓太といる未来を自然と描くようになり、子供なんていらないとさえ思っていた自分の心が揺らぎ始めたのです。啓太はそのことを知ると、酷く動揺しました。同じ思いで、互いに契約を結んだはずなのに、彼女は今まさに変わろうとしている。

でも僕は、これこそ啓太が初めて、自分の力で誰かを変えた瞬間だと思いました。

それまで、一人で生き抜くためにどれだけ努めても、気持ちを押し殺してきても、何も変えることは出来なかった。

そんな啓太が、幸せについて悩んでいた千草に光を見せた。唯一、誰かを自分の手で変えた場面に、僕には見えました。

きっと啓太の中でも、確かに変化はあったはずだと思います。

誰をも好いたことがない。そんな彼が、妻を持ったのですから。


この作品を読んでいる途中、BGMとしてmol-74の「エイプリル」という曲を聴いていました。

その中にこんな歌詞があります。

誰かの幸せを願う程僕は優しくなくて せめて僕だけはと思うのはおかしいのかな

啓太の独白を読みながらこの歌詞が耳に流れ込んできた時は、まるで啓太の心境を代弁してくれているようで、思わず込み上げるものがありました。

特にこの曲は二番からの歌詞もこの作品とリンクする部分がある気がするので、興味のある方はこちらも併せていかがでしょうか。

それでは、またいつか。

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