【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅Vol.7 疾走アジア編⑤
中国に戻るしかない。
ここからの道のりを考えると気持ちが沈んだ。
何より、標高4000m級の山々を超えなければいけないのに、季節は冬に向かっていくのだ。
とりあえず、取得してあったインドのビザは諦めることにした。
そう思えば、まっすぐ通り過ぎてしまったマレーシアを見て回れる。
ベトナムに迂回したために通れなかったラオスを通ることができる。
チベットだってとても興味深いじゃないか。
ケイイチは心を切り替えた。
とはいえ、ヒマラヤ山脈を超えるのだ。
少なくともテントは必要だろう。
どうやってテントを手に入れるか考えた結果、ケイイチはカンパを募ることにした。
2002年当時から、シンガポールには多くの日本人が住んでいた。
日本人経営のお店に入って、事情を説明する。
お金が必要なら働らかせてあげると言われるが、それは違う。
働くことを断ると、大抵の人は困惑した顔をする。
それでもカンパしてくれる人がいた。
店の仕事を手伝う代わりに、カンパとして現金をくれる、と言う提案もしてくれた。
これまで、出会った人に旅の話をして、現金をもらったり、食べ物をもらったりすることはあったが、ケイイチが自ら現金を貰うために動いたことはなかった。
事実、この20年の旅の中で、この時だけだ。
そして、この時のことをブログに書いたことで、ケイイチはたくさんのマイナスの感情を受け取った。
ケイイチ自身もこの時のことを振り返って、
「見ず知らずの人にお金を求めたのは未だに申し訳なく、できればもう二度としたくないこと、しないようにしなければと強く思っています」
と話している。
ケイイチが自分の旅のことをあまり語りたがらないのは、この時の経験が強く心に残っているからのように思う。
日本を飛び出して、8ヶ月半。
ケイイチの中にはたくさんの葛藤が生まれた。
その葛藤に対する納得できる答えを見つけるために、自転車を漕ぐしかなかった。
シンガポールは物価が高いので、頂いたお金は大切に温存して、とりあえずタイまで戻ることにした。
12月9日、再びマレーシアに入国。
冬をやり過ごすために、できるだけマレーシアはゆっくり進むことにする。
縁があって、OISCAと言う世界的な宗教団体の職員の方と知り合う。
宗教団体と言っても、農村開発や人材育成をしているような団体だ。
その繋がりの方の家で、寮の掃除をしたり、畑仕事を手伝ったり、事務仕事を手伝ったりしながら20日間ほど過ごした。
年が明けた。
そろそろ移動を再開しないといけないだろう。
遠い道のりを思うと気が重くなったが、次の目的地になる街、イポーの名前を見て、笑いが吹き出した。
千里の道もイポーから。
一人でニヤニヤしながら自転車に跨った。
南下するときは素通りしていたペナン島にも寄ってみた。
ぐるりと一周する。
ビーチで夜を過ごそうとしたら、夜中に潮が満ちてきて大変なことになったりした。
ゆっくりとマレーシアに滞在できたことで、一度南下したことは無駄ではなかったのではないかと思う。
2003年1月19日、タイに再入国。
引き続き、ゆっくりと進んでいく。
南下するときに泊まったガソリンスタンドで再び泊めさせてもらう。
従業員の人もケイイチを覚えていてくれたのが嬉しかった。
人がいる場所に寝るのは、やはり安心感があってよかった。
孤独な旅の中で人との繋がりを大切にする気持ちがどんどんと大きくなっていった。
時間はいくらでもあったので、バンコクまでは、通らなかった道を行こうと思い、西側の海岸線の道を選んだ。
小さな田舎の街で、スーツに身を包んだ男性に英語で話しかけられる。
こんな田舎で?と不思議に思ったが、アンと名乗った男性に、どこに行くのか?と聞かれたので、日本から来てインドに行くと伝えた。
次の目的地のトムソンまで車に乗せて行ってくれると言うので、ありがたく乗せてもらう。
と、途中で自分の家に泊まって行くように言われた。
外国の人を泊めるのが趣味だと言う。
「今までどんな国の人を泊めたんですか?」
アンさんは、「君が初めてだよ」と言ってニヤっと笑った。
面白い人だ、と思うとどんどん興味が湧いた。
アンさんは山の中の川へ釣りに連れて行ってくれた。
友達が多いらしく、どんどんと人が集まってくる。
日が暮れてくると、ラオカイと言う焼酎で宴会が始まった。
みんな、釣りよりも宴会目的で集まっているようだった。
どのぐらいの頻度で飲んでるんですか?と訊けば、雨の日と晴れの日は飲んでいる、と言う。
ラオカイの瓶が数本空いたところで、知り合いがやっている飲み屋に移動しようと言うことになった。
完全な飲酒運転での移動。
みんな陽気だった。
ふと見上げると月が出ていた。
月を見ていると不思議な気持ちになる。
日本でもタイでも、同じ月。
同じ地球に住んでいる、と実感する瞬間だった。
アンさんは、こんなタイ人がいたと思い出してくれたら良いよ、と言って笑った。
Vol.8に続く。。。
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