【意志あるところに道はある】ケイイチ ちゃり旅20年の道のりVol.21 インド最南端から見える景色①
2004年1月17日、ケイイチは再びカルカッタにいた。
ここからデカン高原を横断してムンバイを目指す。
「インドのどの辺りを転がっていますか?」
と言う、近江さんらしいメールの文章に、ニヤニヤしながら返信をした。
「ムンバイを目指しています」
実は、ケイイチと別れた後、北海道でゲストハウスの準備をしていた近江さんは、旅を忘れられずに、ネパールのカトマンズからインドに向かって自転車で移動している、と言うのだ。
「電車に乗って、ムンバイまで行きます」
そう書かれたメールに到着予定の日付が書いてあった。
ケイイチもその日を目指してムンバイに到着する。
ムンバイの観光スポットである、インド門へ行くと、見たことのある後ろ姿があった。
時間を決めていたわけではない。
場所を決めていたわけでもない。
それでも、そこに近江さんがいて、再会できた。
「見つかっちゃいましたか」
そう言って笑った近江さんの笑顔が懐かしくて、泣きそうになった。
まだ、たった数ヶ月しか経っていないのに。
「次はどこを目指すんですか?」
「最南端のコモリ岬を目指します」
そう言うと、近江さんは何か言いたそうにしていた。
「一緒に走りませんか?」と言うと、「そうだね」と言ってニヤリと笑ってくれた。
ムンバイでもう1人、「タケシ」くんと言う日本人に出会い、彼も一緒に行きたいと言うので、3人で出発することにした。
とはいえ、コモリ岬までは1500km。
日本縦断よりも距離がある。
近江さんとは、とりあえずゴアと言う街まで行こうと決めた。
それでも600km近い道のりになる。
近江さんと一緒に走れることは嬉しかったが、不安も確かにあった。
2004年2月14日。
自転車で走っていると、坂の途中で近江さんがうずくまっているのが見えた。
慌てて近寄って、自転車を止める。
「転んでしまいました」
足からは血が出ていた。
見た目にはひどい怪我ではなかったが、脇腹が痛いと言うのが気になった。
笑ったりするとひびくと言いながら、「あはは」と笑っていた。
肋骨にヒビが入っているのでは?と言う話になり、自転車で進むのは難しいかもしれないとケイイチは思った。
が、近江さんは違った。
「まだ始まったばかりじゃないですか。止めることはいつでも出来るので、このまま進みましょう」
ケイイチは、前向きに進んでいこうと言う近江さんの気持ちが嬉しかった。
でも、心配は心配なので、その日は安宿に泊まることにした。
ベッドで寝て、身体を休めて欲しかった。
この時の怪我はこの後は大丈夫だったのだが、近江さんに異変が起きたのは、1週間後の2月20日だった。
気温はかなり高い。
水を飲みながら進んでいたが、汗が吹き出したところから乾いていくような日だった。
近江さんが、道端に自転車を止めて立っていた。
近づいていくと、全身が痙攣していた。
タケシくんも寄ってきて、少し横になった方がいい、とアドバイスしてくれた。
痙攣は止まらない。
これはヤバイ。
ケイイチは、チベットで近江さんが倒れたときのことを思い出していた。
とにかくヒッチハイクをして、病院に連れて行ってもらわなければ。
とてもラッキーなことに、1台目の車が止まってくれた。
街までは8km。
自転車をタケシくんに任せて、近江さんを車に詰め込み、ケイイチも乗り込んだ。
半目で白目が見えている。
ヤバイ。
本当にヤバイ。
「しっかりして下さい」と声をかけながら、病院までの近いようで遠い道のりをやり過ごした。
病院に着くと、すぐにベッドに寝かせてくれて、ドクターが診てくれた。
大きな注射をすると、痙攣はおさまった。
マラリアではないか、と言って血液検査をしてくれると言う。
とにかく、痙攣が止まったことで、ケイイチは大きく息を吐いた。
タケシくんが待っている場所までタクシーに乗って、タケシくんと2人で自転車に乗って病院に戻った。
病院の好意で、空いている病室のベッドで寝てもいいと言ってくれたのだ。
ガランとした病室には10台のベッドが並んでいた。
寝るのは、ケイイチとタケシくんの2人だけ。
カバーもかかっていないマットレスのシミが血に見えなくもない。
タケシくんが何度も「絶対に怖い話をしないでくださいね!」と言うのが面白かった。
ケイイチにとっては、幽霊よりも蚊が怖かった。
ただ、3人がいた場所はマラリアの汚染エリアではなかった。
検査の結果で、近江さんもマラリアでないことがわかった。
詳細が不明のまま、ケイイチとタケシくんはとりあえず出発することにした。
近江さんにそう告げると、「車で追いかけます」と言うので、とても驚いた。
ギブアップするかと思いきや、「最後まで行きたい」と言うのだ。
「止めることはいつでもできます」
病院のベッドの上でそう言う近江さんに、少し呆れてしまう。
後からトゥクトゥクに自転車を載せて追いかける、と言う近江さんを残して、タケシくんとケイイチの2人は、ゴアに向かって出発した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?