読書:『わたしはこうして執事になった』ロジーナ・ハリソン

書名:わたしはこうして執事になった
著者:ロジーナ・ハリソン
訳者:新井雅代
監修:新井潤美
出版社:白水社
発行日:2016/11
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b251322.html

 ナンシー・アスターと著者ロジーナ・ハリソンの掛け合いがえらく面白かった『おだまり、ローズ』の続篇的な作品。
 今回は著者は一歩退いていて直接にはあまり顔を出さず、物語られるのは彼女の友人にして優れた執事たち。彼らがする思い出話をロジーナ・ハリソンが聞き取る、というもの。

 彼らが下積み時代からだんだん執事の地位にまでのぼりつめていく様子が語られるのだけど、いやあ面白い。それぞれの屋敷のエピソードも興味深いものばかりだが、それに加え、たとえばチャーチルのエピソードも出てきたり。
 でも彼らの話が俄然面白くなるのは、やはりアスター家が登場してからなんですね。アスター家が出てくるととたんに生き生きし始めるというか。そしてアスター家から離れるとどこか生彩がなくなるかのよう。
 彼らは、アスター家に長年つかえたロジーナ・ハリソンの友人たち。つまり彼らもみんなアスター家とかかわりがあるということになる。

 ゴードン・グリメットいわく。

 見るとレディ・アスターはほっそりした美しいご婦人で、うららかな春の日を思わせる笑みを浮かべている。(それがときに一瞬にして冬と化すことは、のちに知ることになるのだが)

 エドウィン・リーいわく。

 その夜アスター夫人を目にしたときは、いままで見たなかで最高の美女かもしれないと思った。薔薇色の輝きと、すばらしい髪と肌、そして雌鹿を思わせる美しい瞳。その瞳がときに一瞬にして雌虎の目に変わることを、私はのちに知ることになる。

 とまあこんな感じで、レディ・アスターをほめる人は誰もいない。
 にもかかわらず、彼女はみんなに慕われているというのがこれまたすごいのだけど。人間味があるからなのか。
 それにしても、雌虎の目って。

 でも、彼女に使える使用人のほうも、

 ぼくは天下無敵のがみがみ婆さんであるレディ・アスターと、そのお付きメイド兼相棒で、いまや知名度でも毒舌ぶりでも女主人に引けをとらないロジーナ・ハリソンとしじゅう顔を合わせるようになった。

 だったり、

 実際、ローズの強烈なヨークシャー訛りがなければ、どっちが主人でどっちがメイドかわからないことさえあった。

 だったりするわけだが。

 とはいえ、アスター家のエピソードは全体としては悲しいほど少なく、それで、ああ、もっとレディ・アスターの物語が読みたい、もっともっと読みたい、とりあえず『おだまり、ローズ』の再読でもするか、というちょっとした中毒のような状態になったのでした。  

 レディ・アスターとロジーナ・ハリソンの物語、海外ドラマにでもなったら相当面白そうだけれどねえ。

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