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文筆家。週末養蜂家。豊かな自然の中でニホンミツバチと静かに暮らしています。 noteは…

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文筆家。週末養蜂家。豊かな自然の中でニホンミツバチと静かに暮らしています。 noteは、泣きたい気持ちを堪えて、寂しさをかみしめて、虚しさを抱き込んで、素の自分と向き合える場所。 見知らぬだれかと文章だけでつながる場所。 小説やエッセイを通して、共感し合えたら嬉しいです♡

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真実のかけら

ミニマリストに憧れて 少しずつ、部屋の整理をはじめた。 主に仕事の資料整理が目的だったのだけれど、 進めるうちに、 昔の手紙や写真、年賀状、カードの類が わんさと入った箱が出てきた。 片付けあるある。 やってはいけないとわかっているのに 少しだけ、と、開いて片目で見る。 だけど、開けたら最後、動けなくなった。 懐かしすぎて、もう先に進めなくなった。 読み進むうちに 「ありがとう」と伝えたい人が たくさん出てきて、驚いた。 こんなにたくさんの人が そのときどきのシーン

    • あの海を選ぶ

      雑誌記者として駆け出しの頃、 旅行雑誌の取材で 初めて沖縄に行った。 私の担当エリアは、 沖縄北部のやんばると呼ばれる地域と与論島。 ポジフィルム約80本と一眼レフカメラを持って 飛行機に乗った。 空港でレンタカーを借り、 10日間の取材旅行が始まる。 ナビもない時代。 地図を片手にミッション付きの車で 道なき道を移動していく。 パイナップル畑の主人や陶芸家、 日ハムの選手が良く来るステーキハウスのオーナー (ここで鍵を中に入れたまま車をロックしてしまった) つる植物

      • ロングロング ア ボウズ

        先日、おばさま方が美容室の話をされていた。 店長がイケメンで癒し系でさぁ、とか、 ついおしゃべりに夢中になっちゃった~とか云々。 それを聞くともなく聞きながら、 女性って、やっぱりこうだよなぁと思った。 私はやっぱり、らしくないのだ。 私は美容室が大の苦手。 まず、自分のしたい髪型がよくわからない。 どんな髪型が似合うのかもわからないので 清潔感のあるストレートのロングを ここ数十年、ずっと続けている。 パーマもかけないので 未だに天使の輪があったりする。 だから、切ると

        • タイプじゃない彼との結婚を決意。  その理由とは?

          「タイプじゃないんですよ、彼の…」と、 まゆちゃんが言った。 彼女は、20代前半。 色白で肌が綺麗で、 大島優子似の 笑顔が眩しい女の子。 「彼氏のどこが好きなの?」という、 私の質問に対する答えになっていないよ、それ。 「先週、二人で婚約指輪を見に行ったんですよ」と彼女がはにかんで言う。 「わぁ、いよいよだね」と嬉しくなる。  婚約指輪のデザインから制作まで、完全オーダーメイドというお店。 二人の出会い、馴れ初めなどをイメージし、 デザイン画を描いてくれるそうだ。

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        真実のかけら

          退屈を、楽しむ。

          友人に誘われて、坐禅会に参加した。 地元で親しまれているこじんまりとしたお寺。 清掃が行き届いた境内には 紫陽花や桔梗などの初夏の花が咲き、 池には錦鯉が泳いでいた。 山に続くハイキングコースや 展望台への小道が整備され、 散歩がてらの拝観者で賑わう 坐禅会は初体験。 事前に、お坊さんから説明を聴く。 まず、坐蒲(ざふ)という 円形のマカロンみたいなクッションを手渡される。 それを平たい座布団の上に置いて座る。 坐り方は、半跏趺坐(はんかふざ)という座法。 両足を両腿

          退屈を、楽しむ。

          サル・イノシシ合戦 栗拾い

          原稿の締切が迫っている。 朝からデスクに貼り付き、 ない言葉を絞り出していると、 友人からメールがきた。 「山へ栗拾いに行きませんか?」 なんという楽しそうな言葉の響き。 思わずOKしそうになった。 いや、今、そんなことをしている場合じゃない。 なんとか断る文句を考えていると、 「迎えに行きますよ。車でさっと行って、さっと拾って、1時間くらいで戻ってきますから」 ぐらついた。 頭の中に浮かぶ、楽しい栗拾いの光景。 帰って、それをマロングラッセにしたり、 栗ご飯に

          サル・イノシシ合戦 栗拾い

          夏を、歩く。

          夕刻。 仕事が一段落し、暑さも和らいだ頃、 少し歩きたくなった。 ひなびた銭湯の駐車場に車を停め、 周辺を散策することに。 冷凍庫で凍らせたミネラルウォーターを手に 国道を一本中へ入る。 小道の先に、澄んだ、きれいな川が流れていた。 空が映りこみ、水面が白と透明に二分されている。 透明パートにじっと目を凝らしていると、 かすかに藻が揺れていた。 地蔵川の梅花藻のように 愛らしい白い花は咲いていなかったけれど 急な流れに身をゆだねるさまは 鯉のぼりを思わせる。 小さな魚

          夏を、歩く。

          モネと稚魚

          数年前、京都文化博物館へ モネの『睡蓮』を観に行った。 連作で描かれた作品は 時間の経過を感じさせる。 これは良く晴れた日の午後 これは雨の日 水の温度さえ推し量りたくなる この透明感 絵の前にじっと佇んでいると、 モネの庭の池が見えるような気がした。 風に揺らぐ睡蓮の繊細な花びらや葉を じっと眺めている、 そんな妄想さえ芽生てくる。 水面に揺らぐ美しい睡蓮の今を描きとめようと、 モネは、日がな一日、描いていたのだろうか。 何枚も、何枚も 生きていた睡蓮の記録を残すみ

          モネと稚魚

          ぼくの学校をショウカイします。

           ぼくの名前は、海。 君たちとおんなじ小学生だ。 今日は、ぼくの大好きな学校を みんなにショウカイしようと思う。 ぼくの学校は、ディズニーランドくらい、でかい。 山もあるし、川もある。里もあるし、森や湖もある。 学校の中には、スーパーやコンビニ、病院や警察、消防署、 先生や学校で働く人の家もある。  いくつもの小学校が合体してできた学校には、 となり町やそのとなり町からもたくさんの子どもが通っているんだ。 遠くから通うのは大変だろうって? それはだいじょうぶ。 お迎えバ

          ぼくの学校をショウカイします。

          だれかの命

           その夏、久しぶりに縁日で金魚すくいをした。  九匹釣り上げたところで、ポイに大穴が開いた。がっかりして見つめる水面から、金魚の青い匂いが鼻へ昇ってきた。 「はい、お土産」  店の親父さんがぷっくり膨れたビニール袋を差し出した。湾曲した水中で赤と黒の金魚が揺らいでいる。  黒い方は出目金だった。  家に帰り、陶器の睡蓮鉢に小石を敷いて、水を張った。金魚をそろり放つと、ひらひらと揺らいで、石の陰に消えた。  あれから五年が過ぎた。 二匹の金魚は小さな鯉くらいに成長した。

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          蒼い月の夜に

                         一  まだ暗いうちから、カイは沖へ沖へと一人、船を漕ぎ出した。蒼い月の光が赤銅色に火照ったカイの背中をそっと包み、水先案内人となって、行く手の波間におぼろな粒子を散らしている。水面をかする風、艫を返す密かな水音だけが、かわるがわる耳をすり抜け、今宵の静寂を告げていった。  ほどなく行くと、海面からにょっきりと突き出た岩影が船尾の向こうに現れた。赤子に乳をやる女の上半身を思わせるその岩は、地元では人魚岩と名付けられている。カイはいく度もその岩を

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          蒼い月の夜に

          ブルームーン

                             once in a blue moon              とてもめずらしい、めったにないことの意。 prologue 蒼い月の夜、いつものプールで見知らぬ美しい男の影にとりつかれた涼子。その後彼女の周囲で次々に起こる不思議な出来事。果たして男の正体とは…。 ちょっぴり怖くて、 ちょっぴりせつない、 once in a blue moonの物語。 水の中の男  数年に一度、ひと月に二度、満月が

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