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タイプじゃない彼との結婚を決意。  その理由とは?


「タイプじゃないんですよ、彼の…」と、
まゆちゃんが言った。

彼女は、20代前半。
色白で肌が綺麗で、
大島優子似の
笑顔が眩しい女の子。

「彼氏のどこが好きなの?」という、
私の質問に対する答えになっていないよ、それ。

「先週、二人で婚約指輪を見に行ったんですよ」と彼女がはにかんで言う。
「わぁ、いよいよだね」と嬉しくなる。

 婚約指輪のデザインから制作まで、完全オーダーメイドというお店。
二人の出会い、馴れ初めなどをイメージし、
デザイン画を描いてくれるそうだ。
まさに世界に1つだけの指輪ができそう。

「全部で6枚のデザイン画を描いてくれて、そん中からいいとこ取りしたって感じですかね」
 まゆちゃんがちょっとおすまし顔で言う。

「どんなデザインにしたの?」
「まず、指輪のダイヤを下から掴む爪が5本。これが出会ってから今日までの年数になっていて」
 へぇすごい。思わず声のトーンが上がる。
「で、彼氏のイニシャルと私のイニシャルで、もう一つの石を支える感じのリングデザインなんですよ」
「へぇ~なんかおしゃれだね~」

 さっきから「へぇ~」しか言えなくなってる。
 時代は完全オーダーメイドなのだそうだ。

「で、そのもう1つの石が、彼氏曰く、サプライズらしいです」
 それは孔子曰く、びっくりです。

「サプライズって、誕生石とかかな?」
「いや、その程度をサプライズとは言わせないです」
 そりゃ悪かったね、と突っ込むも、にやけ顔でかわされた。
 幸せな人と幸せを共有しているときは、何を言っても幸せになる。
「楽しみだね」
「はい」
 言いながら、まゆちゃんが「さむっ」と言って両腕をさすった。

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私たちは、夜のプールで、二人して水着姿で水中にいる。
彼女は水泳のコーチで、私は生徒。

今夜の課題は、記録会前の飛び込みとスタートの練習なんだけど、
それどころではなくなってきたみたい。

「ちょっと歩こう」
私たちは体を温めようと、水の中を歩き出した。

海猿くんも試合を控えたRくんも
時間通りにプールに入水。
1つ向こうのレーンでゴーグルをいじりながら
いつ練習が始まるのかという顔で
ちらちらこっちを伺っている。

そんな無言の催促を気にとめるふうもなく
まゆちゃんはどんどん前を歩いていく。
状況を俯瞰し、笑いそうになる。

まだ話の続きがあるの、といわんばかりに
白い背中が水をはじいてきらきら光る。


「でもわからないんです。なんでこうなったのか」

25mをターンするみたいに踵を返し、彼女が続ける。

「え? 結婚のこと?」
「はい」
 
 ここから、あの冒頭の衝撃的な告白が始まった。

「まず顔がタイプじゃないし」と、
 彼女は言った。言いながらくすっと笑う。 
「どっちかというと、しぐさも。あと、服装とか声も好きじゃないというか」

心が青ざめてくる。
青ざめながらも、そのセリフに惹きつけられた。
こんな衝撃の展開から始まった場合、
必ずといっていいほど、100%感動する話がついてくるものだから。

助け舟を出そう、自分に。

「熱が出たときとか、すっごく悲しいときとか、会いたいって思う?」
 うーん、とayuちゃんが首を傾げる。

「空とか、夕焼けとか、すっごくきれいな景色を見たときとか、いっしょに見たい、見せてあげたいって思う?」
 うーんと腕を組んで考えるふりをしたあと、彼女はきっぱりと言った。

「っていうか、どんなことも、どんなときも、まず一番最初に話したいって思います」

 そうか、よかった。いい話だ、やっぱり。

「彼には、どんなことも、何でも話せるんです。何も気を遣わなくて、いつも素の自分でいられる。いっしょにいてすごく楽だし」

それが彼女の出した、正解だった。

つまり見た目など問題にならないくらい
素敵な恋をしている、と言いたかったのだけど
シャイゆえに言い方がぶっきらぼうになってしまうんだ。
それだけに二人の関係が、ものすごく純粋に見えた。


友だちとして出会い、ずっと彼女を見てきた彼。
彼女が誰かと婚約して破棄したときも傍にいた彼。
彼女の思いや考えを、いつも一番先に聞いて、受け止めてきた彼。
そんななかで芽生えた気持ち。
それが「付き合って」になり「結婚しよう」になった。

恋愛に躓いて、傷ついたり、傷つけたりが嫌になり、
もう恋愛はこりごり、だれも好きにならない、と宣言した彼女。

それから数年後、
「おれは、まゆをあんな気持ちには、ぜったいにさせない自信がある」
 そう告白した彼。

彼からプロポーズされたとき、
彼女が一番最初に考えたこと。

それは、
「この人を幸せにできるんだろうか」ということだった。
プロポーズに応じるということは、
その責任を負わなければならない、
果たして、自分にそれができるんだろうか?と。

過去の自分は、誰と付き合っても、
「この人といて、私は本当に幸せになれるのかな」と、
自分のことばかり考えていた。

だけど今は完全に逆転した。
その感情の変化に、自分でも驚いたという。

あんなにタイプじゃないと思っていた顔も、
最近はいい感じに思えてきた、と失礼を言いつつ、
ふとしたしぐさ、言葉に感動することもあったりして、と
心は満月のくせに、目を三日月にして微笑む。

彼女は今、過去の自分と決別し
新たな自分と向き合いながら、倖せを掴もうとしている。

そんな気がした。

”色即是空”という言葉がある。 

顔や容姿など、目に見えるもの、
形あるものは、時とともにその輝きが失われていく。

目に見えない何かでつながっている二人には、
それが何なのかわからないからこそ、
これから無数の発見や気づきが待っている。

その気づきや発見は、
決してその輝きを失わない、永遠に色褪せない、

ひとしずくで心を満たす、
倖せのエッセンスだ。

                   ♡おめでとう、まゆちゃん♡

*まゆちゃんは仮名です。

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あとがき

 ~ まゆちゃん、そしてまゆちゃんの彼へ ~
 
こんなタイトルをつけてしまって、ごめんなさい。
でも彼女がこの衝撃的な一言を言わなかったら、
この素敵な物語は生まれていなかったと思います。
私はこの一言で、それでも彼女が結婚を決めた理由に、
ものすごーく惹きつけられました。
そしてその答えは、本当に、本当に感動的なものだったのです。

まず、彼の生き方がカッコいい! 
サプライズなんかなくても、存在がサプライズ、って思いました。
さらに、あなたの写真をまゆちゃんから見せてもらって、
正直ここに掲載させてほしいくらい、イケメンだったことも、
あなたの名誉のために付け加えておきます。
もともとかわいいまゆちゃんですが、ここ最近は本当に綺麗になって、
ついついみとれてしまいます。
それは、間違いなく、あなたの功績だと感じます。
 
  二人が出会ってくれて、本当に良かったです。感謝。
         いつまでもお幸せに♡

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