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StoM 第1話 読了3分(全5話)

あらすじ
とあることがきっかけで桜田まりなと交際させられることになった雄太郎。雄太郎はまりなからSMを勉強しろと強要される。言われるがまま自習を始めた雄太郎だったが…。

StoM

カーテンを開け、ラジオを最小のボリュームで流している。流れている曲が古い時代のフォークソングならなおいいだろう。テーブルに分厚い小説を何冊か積んでみた。小説の横にはコーヒーだ。

なんとか作家の気分になれそうだ。こんなことで作家の気分になれる俺もどうかと思うが、何とか雰囲気はできたと思う。

「SMってのは文学なのよ、だから雄太郎が勉強するときは思い切り作家気分でしなきゃだめよ」

そう言って微笑むまりなの顔を思い浮かべた。まりなというのは俺が今付き合わされている女の名前で、雄太郎というのは俺の名前だ。俺は木崎雄太郎という。

しかし、どう飾ってみてもこの部屋は単なる戸建ての2階の一室だ。洗濯干し場のあるベランダが見える窓と、窓の手前には小学生の時から使ってきたデスク。後ろには広くも狭くもないクロゼット。ありふれた子供部屋だ。その部屋を大人になった今もあてがわれている。

俺は3年前に大学を卒業して不動産会社に就職したけれど、自宅が港区だったから中央区の就職先に通うのには差し支えないという理由で、一人暮らしをせずに実家に住まわせてもらっている。食費という名目で家に毎月5万円入れている。

俺の勤めている会社は不動産会社だ。といっても賃貸ではなく投資用のマンションを売る部署の事務職だから土日と祝日が休みだった。

今日は土曜日、ひたすら勉強だ。何の勉強かって、宅建や英会話といった仕事に直接関することならいいのだろうが、残念ながら違う。

率直にいうとSMの勉強だ。S、M、え?あのSMと思う人もいるかもしれないが、あのSMだ。あのSM?ってなんだ。

人をロープで縛ったり、縛られた人を叩いたり、きらりと光るアイスピックで乳首をさしたり、中には脱糞をしているところを見て喜ぶ人もいるというあのSMだ。なんだよSMの勉強って、と普通の人は思うだろう。俺だって最初は耳を疑った。

付き合っているというか、付き合わされている女、つまりまりなが勉強しろと言うから勉強している。女といえば女だが、まりなが俺の女かと言えば違うような気がする。付き合っているというが、付き合ってないともいえなくはない。つまり中途半端な関係だ。

なぜ中途半端なのかというと、俺はまりなの体に触れたことがない。まりなは俺の体を叩く。だが素手で地肌を触られたことはない。いつもムチやロープ越しに気持ちを伝えてくるからだ。つまり俺たちには体の関係はないということになる。会ってSMをして終わる関係だ。

俺とまりなは勤め先の不動産会社で出会った。同じ会社に勤めている同僚だ。同僚といっても同期ではない。彼女が10歳年上だ。だから彼女は35歳だということだ。

付き合い始めて、というか付き合わされ始めて3カ月だが、個人的にデートというか、プライベートで会ったのは2回しかない。今夜会う約束をしているから、今日が3回目だ。

彼女の名前は桜田まりなという。なんとも、いそうでいなさそうな名前だ、芸能人にはいなかった、念のためリサーチ済みだ。そういえば名前までSMというイニシャルなのだから驚きだ。世の中はうまくできている。

俺は、彼女に言われた通り、今日はSMのDVDを見ている。近所にできたショッピングモールに運がいいのか悪いのか、DVDのレンタル屋が入ったからそこから借りてきた。まりなはそれにSMの勉強をするよう、前回命令してきた。俺はそれに純粋に従っていることになる。じゃないとあとがないわよ、真顔でそう言われたからだ。

俺はレンタル屋からSMのシリーズものを5枚借りてきた。これだけ見れば俺もいっぱしのSMプレーヤーだ。こう言うと俺はSMにあこがれているように思われるかもしれないが、俺はSMは好きじゃない。そうだろ?痛いし、危険だ。縛り上げられてムチで叩かれた日には最悪で、体に跡が残る。次の日はそこの部分にシャツやスーツが当たって、仕事中にズキズキ痛みを感じるときもある。

偏見かもしれないがSが女王様と呼ばれるのなら、Mはどうしても社会の負け組のような気がする。社会の頂点に立つ神のような存在からいたぶられる最低下級の奴隷だ。初心者だからそう思ってしまうのか、あるいはもともとSMとはそういう関係性を明らかにするプレイなのか、たまに悩んでしまう。そんなことを考るのは自分がSMという奥の深いプレイに足を踏み入れてしまった証拠なのだろう。

俺はまりなに言われた通りSMの勉強をしているが、たぶん断る理由を探しているのだと思う。まあ、断ることができればの話だが。

1枚目のDVDをプレーヤーに差し込んでスタートさせた。10分くらい見ていると、女が猿ぐつわをされ、ムチで思い切り叩かれているシーンに移行した。いよいよ始まるぞ、俺は気合を入れた。

叩いているのも女だ。2人とも目に大きなアイマスクを着けているから顔がよくわからないが、おそらく猿ぐつわをしているほうが若い。これは、俺の勘だ。逆のこともありえなくはないが、ここは叩いているほうが年上で、叩かれているほうが年下の方が合点がいく。叩いているほうはボンテージ姿だが、叩かれているほうは全裸で、アイマスクと猿ぐつわだけを許されていた。

叩かれている女は「女王様もっと、もっと、もっと私に愛をください」などと言ってるから相手が調子に乗る。それくらいのことはわかる。

「当然でしょ、あなたは私の奴隷なんだから、なかなかいいわよ、その姿勢」

そう言って懇願されたところで、女王様は、すでにローションでヌルヌルになり四つん這いになっている奴隷を、決して許したりはしない。

いやこうでなきゃ面白くないよ、とSM好きのやつは思うかもしれないが、俺はそれより叩かれている女性の体にくぎ付けだった。

身長はそれほど高くはないが出るところは出ている、腰はきゅっとしまっているが臀部のふくらみが何とも言えなくいい感じだ。肌は白くやわらかそうだ。

女王様がムチで叩くと、奴隷の女が悲鳴を上げた。俺はSMが嫌いだったはずなのだが、なぜだか女の懇願する顔と声に、少し興奮してきたのだった。

次に女王様がアイスピックを出した。細くとがった先端を太ももに当てる。先端は照明の光を反射してとても鋭く見える。

「あん」

女王様がアイスピックの先端を太ももからお尻の方へずらすと、奴隷の女がいやらしい声を出した。俺もだんだんその気になって、思わず股間に手が伸びていた。股間をにぎりながら画面にのめりこむ。

StoM  2話へつづく

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