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日記 第8話 (読了2分)

これまでのあらすじ
友人から預かったSMで使う拘束道具と熟女パーティのパンフレットを妻に見つかり、離婚された西澤祐樹。上司のパワハラをきっかけに会社を長期休暇することになった祐樹は一人では耐え切れず結婚相談所に相談をしてみた。

日記 第8話

「ほんとはいるのかもね」

「幽霊がですよね」

ごもっともな意見だと思った。

「違うわよ、奥さん。別れていると思った奥様とは実は別れていなくて、そこにいるのは本当の奥さん。幽霊なんかじゃなくて。離婚はあなたの思い込み」

幽霊を見るより怖い話じゃないか。

妻がいる?それはないだろう。電話で話をしているから家を出て行ってるのは間違いない。その証拠に千沙が持っていた家の鍵は電話の翌日、速達で送ってきている。

「いいえ、もう家に帰ってきたくないって鍵を送ってきたから間違いないです、離婚したのは」

帰ってきてほしいと懇願しても帰ってこないだろう。

「あのー、結婚の話はしてくれないんですか?」

何を話しているのか分からなくなったので、聞いてみた。

「するわ、その前に幽霊をなんとかしないとね、それも同時並行よ」

笑顔でそう言われると、そういうものなのか、と流されてしまう。

「部屋にさ、奥さんの服とかあるでしょ。西澤さんの場合はね統合失調症だと思うな。色々な原因が考えられるんだけどね、この病気は。私が思うに過度なストレスが原因だと思うの。こんど病院紹介するから行ってみる?私は医者じゃないからね、それくらいしか言えないけど」

なんとなく言ってることが当たっていた。服があるし、前々から強いストレスが原因じゃないかと自分でも思っていた。上司の川崎の顔が浮かんだ。今頃のうのうと仕事をしているのだろうか。

「医者は行きたくないです」

仕事上、医者のネットワークはある。診察に言って変な噂が出回るのは避けたいと思った。

「そっか、じゃあもう少し考えようか、この問題は、日記継続」

そういって三上さんはパソコンに向かってキーボードを打った。

「それと気になるのは熟女ね、どう?熟女」

「どうと言われても。熟女のパンフは持っていますが、あれは自分のじゃないし」

熟女という生き物に多少の興味は出てきていたが、ここは否定したかった。

「そう?まあいいわ、その線も今のところ捨てずにもう1週間日記書いて決めましょう」

三上さんが嬉しそうに日記帳を渡してくれた。表紙のパンダが笑っていた。

1週間たっても日記の内容はそう進歩しなかった。

受付の女性に案内されて入った部屋は先週と同じ部屋だ。自分の相談場所だ。なんとなく部屋に思い入れが出てくる。

「はーい、日記書いてきた?」

相変わらずのテンションと運動量だ。ドアを開け部屋に入ると、スケートでもしているように回転して席に着いた。

「今日は7行ってことはないよね」

「はい」

座るなり言葉を投げてきた三上さんに向かって少し胸を張った。

三上さんがまじめな顔をして日記帳と向かい合ってる。

「なんだ、一日2行か、でもまあ頑張ったね」

なんだ、と言いながらも三上さんが嬉しそうにほめてくれる。こんな笑顔で褒められるなら毎日ここに来てもいいかな、と思った。どうせ暇だ。

「お、今週はちょっと未練が晴れたみたいね。月曜日なんかいいわね。今日は晴れたから散歩した。歩いているとかわいい赤ちゃんをベビーカーに乗せた母親とすれ違った。すれ違いざまに母親の顔を見たら熟女だった」

そこまで読むと三上さんが目を細め祐樹を見た。

「あ、ありがとうございます」

自分もなぜお礼をいったのかわからない。

「熟女いいかもね」

独り言のように三上さんがつぶやく。

「火曜日、昼ドラを見た。暇だ、早く仕事がしたい、そう思ってテレビと向かい合った。主役の刑事にたてついた女性刑事がきれいだった。熟女」

また三上さんが上目遣いに祐樹を見る。

「熟女ねーー」

「自分でもよくわからないんです、たまたま、そこが気になっただけだと思うけどなあ」

「それが愛よ、ラブ」

そう言って三上さんは左目でインクした。

「こっちには愛はないし」

三上さんが笑いながら聞いている。

日記 第9話に続く

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