back number「ハッピーエンド」歌詞考察-メンヘラ彼女とクズ彼氏と気持ち良さの正体

最近サブスクリプション解禁になりよく聞いているback number、その中でも特にお気に入りの一曲「ハッピーエンド」について。この手の考察の類はいくらでも解釈の余地があり、これが正解というものは無いと思っている。そうでなければ受け手の共感や想像の余地が無いからだ。だからあなたがこの記事を読んで「いやそれは違うでしょ!」と思ったとしても、それは僕に言われても困るので心の中にしまっておいてほしい。

前置きはこれくらいにして本題に移ろう。まず、ハッピーエンドという曲のタイトルについて。これは清水依与吏氏がインタビューで語っているのであまり書くことがない。曰く「主人公の女の子が一生懸命嘘をついているので、だったらタイトルまで嘘をついてあげないとかわいそう」とのこと。とある考察ブログでは「女の子にとっては全くハッピーエンドではありませんが、客観的に見れば美しい終わり方、ハッピーエンドなのです。」などと書かれていたが、最終的には女の子泣いてるからね。全然美しい終わり方じゃないでしょ。あと男の方はなかなかのクズ(後述)だし。ちなみにwikipediaによるとこの曲の制作時の仮タイトルは「回転する」だったとか。

次に歌詞について。

さよならが喉の奥に つっかえてしまって
咳をするみたいに ありがとうって言ったの

出だしからメンヘラ注意報発令である。「さよなら」と言うべき場面でその言葉が出てこなくて「ありがとう」と言ってしまう。もうこれだけで僕のメンヘラセンサーはエマージェンシーだ。

次の言葉はどこかと ポケットを探しても
見つかるのはあなたを好きな私だけ

なぜ言葉を探すのにポケットなのか。単なる比喩ととらえることもできるが、実は後の歌詞の伏線になっている。back numberの曲は出だしの1,2フレーズで二人の関係性(距離感)と情景描写が完了しているものが多いが、この曲もここまで聞いただけで「別れることがほぼ決まっている場面で、女の子の方がまだ未練がある」という状況だと分かる。

平気よ 大丈夫だよ
優しくなれたと思って 願いに変わって最後は嘘になって

僕はこのフレーズがこの曲の本質だと思う。仮タイトルの「回転する」が示すように「平気よ大丈夫だよ」という言葉が最初は相手を思いやる優しさから出たもので、次の瞬間には「私はあなたがいなくても大丈夫なはず。大丈夫だといいな…」とやや不安な願いになり、最後には「やっぱり無理、あなたがいないと生きていけない!」という具合に目まぐるしく心情が変化していく。「あなたがいないと生きていけない」というのは拡大解釈ではないかと思われるかもしれないが、主人公は彼氏に対して

見える全部聞こえるすべて
色付けたくせに

と言っている。つまり彼女にとって彼がいなくなるということは「この世界から色も音も消えて無くなる」ということに等しいのだ。

青いまま 枯れていく
あなたを好きなままで消えていく
私みたいと手に取って
奥にあった想いと一緒に握り漬したの

私みたいと手に取ったのは「青いまま枯れていく花」のイメージだろうか。いずれにしても、ここで出だしの

次の言葉はどこかと ポケットを探しても
見つかるのはあなたを好きな私だけ

という歌詞を思い出す。国語の試験であれば「奥にあった想いと一緒に握り潰したの」の"想い"とはどのようなものか、という設問が作れるだろう。正解は「ポケットの奥にあったやっぱりまだあなたのことが好き」という想い。そして握り潰したのはその想いと、頭の中に浮かんだ青いまま枯れていく花のイメージか。思うにポケットという言葉を選んだのは、ここまでの歌詞を単なる心理描写で終わらせることなく、彼女の外側の世界と結びつけるためではないか。つまり、彼女は実際にポケットのある服(コート?ジャケット?)を着ていたのではないか。だとすれば季節は夏以外、場所は屋外ではないか、ということが想像できる。ここに来て出だしの情景描写がより具体的に鮮明になる。そして、きっと彼女はコートのポケットの中でも手を強く握りしめていたに違いない。

あとの歌詞は大体書いてあるそのままの意味だと思うので、特に書くこともないのだが、彼氏のクズっぷりについては言及しておいきたい。

泣かない私に少しほっとした顔のあなた

この彼女は事あるごとに泣く面倒くさいタイプのメンヘラであるという点については議論の余地は無いだろう。(余談だが清水依与吏氏も自分の書いた曲の主人公について「面倒くせぇな」と思うことがあるそうだ。)そしてそんな彼女との別れの場面で泣かないことにほっとしている彼氏。この期に及んでまだ彼女の性格を理解していない。彼女が本心から笑って別れて「元気でいてね」なんて言うと思っているのか。

気が付けば横にいて
別に君のままでいいのになんて
勝手に涙ふいたくせに

やっぱり泣いちゃったよ。そしてこの段になって距離を縮めるな。きっと「どうすれば、どこを直せば別れないでいてくれるの?」とでも聞いたのだろう。それに対して「別に君のままでいいのに」である。勿論これは「君のままでいいんだよ。これからも一緒だよ。」という意味ではない。「君は君のままでいいと思うけど、もう一緒には居られない。」という意味だ。じゃあどうすればいいんだよ。そう、どうしようもないのだ。

僕は男女の別れに「美しい別れ」や「幸せな別れ」なんていうものはないと思っている。だから、きれいな部分だけを切り取って思い出を美化したり、相手のためを思えばこれで良かったんだと自分に嘘をついたりしないと、とてもじゃないが次の恋愛になんて進めないのだろう。清水依与吏氏はこの曲を「歌っていて気持ち良い曲」と語っている。僕も同感で、カラオケで歌ってみるとその歌詞とは裏腹に非常に気持ち良い曲なのだ。それは勿論、曲自体の完成度の高さもあるのだろうが、同時に「自分の中にある消化しきれていなかった想いや、自分に嘘をついて蓋をしていた感情を吐き出す気持ち良さ」という面もあるように思う。

ぜひ皆さんも自分の中にいる「面倒くさいメンヘラ女子」をこの曲に乗せて吐き出し、供養してあげてはいかがだろうか。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?