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back number「冬と春」歌詞考察-タイトルの意味と逆説的シンデレラ

今回はback number「冬と春」の歌詞を考察しつつ、タイトルの意味についても考えてみたいと思います。



前置き

初めて通して聴いたときから、これは歌詞考察を書かずにはいられない曲だという思いがあり、筆を執りましたが、相変わらず深く掘りすぎて何色か分からない水が出てきたような深読みと、もはやこじつけに近い都合の良い解釈による考察となっていますので、こういう受け取り方もあるんだなーくらいの感覚で読んでいただけると幸いです。
それでは早速歌詞を見ていきたいと思います。


二人の関係性と、表現のひっかかり

私を探していたのに
途中でその子を見つけたから
そんな馬鹿みたいな終わりに
涙を流す価値は無いわ

「ハッピーエンド」の歌詞考察では「back numberの曲は出だしの1,2フレーズで二人の関係性(距離感)と情景描写が完了しているものが多い」と書きましたが、今作の場合ここまでの歌詞で分かっていることは、主人公が女性であるということと、相手(彼氏)が他の子を好きになってしまい恋が終わったということぐらいでしょうか。「涙を流す価値は無いわ」というセリフは単なる強がりのようにも受け取れますが果たして…

ところで、「私を探していた」「途中でその子を見つけた」という表現に少しひっかかりを覚えましたが、これは後に続く歌詞でこの言葉を選んだ理由が判明します。


完結した物語と、それを受け入れることができない主人公

幕は降りて
長い拍手も終わって
なのに私はなんで
まだ見つめているの

「雨と僕の話」の考察では「エンドロールは無い」という歌詞について「この物語が完結していないからではないか」と書きました。
一方でこちらは「幕は下りて長い拍手も終わって」いることから、この物語が(どのような形であれ)一応は完結していることが分かります。
ただ、主人公はそれを受け入れることがまだできていないから「まだ見つめている」のでしょう。


主人公の心の声(本音)

嗚呼
枯れたはずの枝に積もった
雪 咲いて見えたのは
あなたも同じだとばかり

嗚呼で一気に感情が入った歌い方になり、主人公の本音・心の声が語られます。このあたりは如何様にでも解釈できる歌詞ではあるのですが、あなたも私と同じ景色が見えている(同じ気持ちでいてくれている)と思っていたのに、という感じでしょうか。
もう少し深読みするなら「あなたと一緒なら、たとえずっと冬でも、春が来なくても幸せだよ、あなたにとって私もそうであってほしかったな」という主人公の想いを表現しているのかもしれません。


春の訪れと、表現のひっかかりその2

嗚呼
春がそっと雪を溶かして
今 見せてくれたのは
選ばれなかっただけの私

それでもやっぱり春は来るんですが、春の訪れが必ずしも心から歓迎できるものとは限らないのもまた事実ですね。ここだけ見るとただただ切なく、救いのないストーリーのようにも思えますが…
「そっと雪を溶かして」、「選ばれなかっただけの私」という表現は後ほどもう少し掘り下げます。


物語の核心と、伏線回収

あんなに探していたのに
なぜだかあなたが持っていたから
おとぎばなしの中みたいに
お姫様か何かになれるものだと

面倒くさくても
最後まで演じきってよ
ガラスの靴を捨てた誰かと
汚れたままのドレスの話

ここがこの曲の核心ですね。
「あんなに探していたのに」、「なぜだかあなたが持っていた」のはガラスの靴でしょう。一見抽象的な表現に見えますが、後に続く「おとぎばなし」、「お姫様」、「ガラスの靴」、「汚れたままのドレス」というワードから、誰もが知っているシンデレラのストーリーになぞらえているのは明らかです。
シンデレラのお話では、探す対象はガラスの靴自体ではなく、ガラスの靴に合う足を持った人(=シンデレラ)なのですが、主人公の側からすれば、ガラスの靴を持って自分を探してくれる人を探していた、ということですね。

ずっと探していた運命の相手、それは全然王子様っぽくない(根拠は後述)あなただった。運命を感じるほどの相手と出会えたから、自分もそのストーリーのヒロインになれるものだと思っていた…

でも相手は最後までそのストーリーを演じきってはくれなかったんですね。途中でガラスの靴を捨ててしまい(=これは運命の恋ではないと見限ってしまった)私にとっての王子様ではなく「誰か」になってしまった。
そして私は物語のヒロインにはなれなかった。

さて、ここに来てようやく最初の歌詞の意味が理解できるようになります。
「私を探していたのに」は王子様がシンデレラ(運命の人)を探している様子を表しており、最初は彼にとっても主人公が「運命の人」だったことが分かります。つまり、お互いに運命を感じるほどの恋だったわけですね。
ところが、シンデレラを探している「途中で」、「その子を見つけた」から、物語がそこで終わってしまったのです。

主人公が「馬鹿みたいな終わり」だと感じてしまうのも無理はないですね。
「涙を流す価値はないわ」と言っているのは、単なる強がりととることもできますが、自分がヒロインだと思っていたストーリーが唐突に第三者の出現によりあっけなく終わりを迎え、悲劇のヒロインにすらなれなかった主人公のやり場のない喪失感を表現しているようにも思えます。


タイトルの意味と、知りたくなかった気持ちの名前

嗚呼
冬がずっと雪を降らせて
白く 隠していたのは
あなたとの未来だとばかり
嗚呼
春がそっと雪を溶かして
今 見せてくれたのは
知りたくなかったこの気持ちの名前

ちょっと深読みですが、この曲のタイトル「冬と春」の「冬」は主人公で「春」はあなたとも読み取ることができます。
私が心に雪を降らせて隠していたのは、あなたとの未来(それは例えば「運命」だったり、「結婚」だったり、言葉にはしないけど、心に秘めた想い)だと思っていたけど、あなたがその雪を溶かして見せてくれたのは…

「知りたくなかったこの気持ちの名前」に当てはまる言葉は色々と考えられますが、僕はこの曲のタイトル「冬と春」がこの気持ちの名前に一番近いのではないかと思います。端的に言えば、「運命じゃなくても、あなたにとって私が一番じゃなくても、私はあなたが良かった」という気持ちでしょう。それは冬と春が不可分で、だけど一つではなくて、離れていってしまうことが必然だとしても、あなたのことを想う気持ちだけは消えてくれない。そんな心情を「冬と春」という言葉で表現しているように思います。


舞台装置としてのジャケットと、その子(夏)

似合いもしないジャケット着て
酔うと口悪いよねあいつ
「でも私そこも好きなんです」
だって
いい子なのね
でもねあのね
その程度の覚悟なら
私にだって

急に生々しい描写ぶち込んできましたね。
前半でちょっと抽象的で詩的な表現に偏っていた分、ここらでback number節かましたるか!という意気込みが感じられます。

この会話から、主人公と恋敵の「その子」が顔見知りだということと、「その子」の方が主人公より年下か目下であることが分かります。主人公が彼氏の元カノだということを知ってか知らずかは分かりませんが、いずれにせよキッツイ状況ですね…

そして「似合いもしないジャケット」という部分が、前半で彼が「王子様っぽくない」と書いた理由です。
ここまでの歌詞では「あなた」の具体像についてはほとんど触れられてきませんでしたが、唐突にジャケットという極めて具体的な単語を使う理由としては、「リアリティーを出すため」というだけでは少し弱いように感じます。
そう考えると、やはりここでもシンデレラになぞらえて「ジャケット」がおとぎ話(ジャケットの似合う王子様)と現実(ジャケットの似合わない彼)をリンクさせる舞台装置として用意されたものだと考えるのが妥当ではないでしょうか。

また、「その子」の発する「でも私、そこも好きなんです」という悪気もなく真っ直ぐな言葉からは、季節に例えるなら「夏」っぽさを感じます。
冬から春を奪っていった夏。(本人は奪ったつもりなんてないのでしょうが…)
でも、あくまでもこの曲のタイトルは「冬と春」なんですよね。そのあたりからも主人公の「この物語は私とあなた二人だけのもの」という強い意志を感じます。


素直じゃないけど実は素直な主人公

嗚呼
私じゃなくてもいいなら
私もあなたじゃなくていい
抱きしめて言う台詞じゃないね

「私もあなたじゃなくていい」というのは実際に声に出して、あなたに言った台詞であって、心の声(本音)ではないですね。
実際、抱きしめちゃってるので、本心では離したくない、誰にも渡したくないという強い気持ちが見て取れます。
このあたりが「ハッピーエンド」の主人公と違って素直なんですよね。
強がりは言うけど、自分の気持ちには嘘はつかない。


最後に残された優しさと、逆説的シンデレラ

嗚呼
枯れたはずの枝に積もった
雪 咲いて見えたのは
あなたも同じだとばかり

嗚呼
春がそっと雪を溶かして
今 見せてくれたのは
選ばれなかっただけの私

ひとり泣いているだけの
あなたがよかっただけの私

この終わり方だけ見ると、あまりにも切ない、救いのない話のようにも感じられますが、曲全体から受ける印象は少し違います。
春が「そっと」雪を溶かして、「見せてくれた」という表現からは、切なさよりもどちらかというと優しさのようなものを感じます。それは楽曲のアレンジにも同じことが言えます。

「選ばれなかっただけの私」は、誰が悪いわけでもなく、ただ選ばれなかっただけ、一つの季節が終わっただけなんだよ、と解釈することもできます。

「ひとり泣いているだけの あなたがよかっただけの私」は、シンデレラにも悲劇のヒロインにもなれなかったけど、それでも「あなたがよかった」と自分の気持ちに素直になれている主人公の成長を認めてあげている、そんなこの曲からの優しさのようなものを感じました。

恋愛はアメフトじゃないので、負けた瞬間にすぐ立ち上がって前を向く必要なんてありません。しばらくグラウンドに突っ伏して泣いたっていいんです。時には感傷に浸ったり、相手のせいにしてみたり、誰かを憎んでみたりしてもいんです。
大切なのは、自分が誰かを心から愛することができたという事実と、シンデレラじゃなくても、悲劇のヒロインじゃなくても、あなたの人生の主人公はあなたなんだという事です。

何者でもない、だけど紛れもなく人生の主人公である一人の、ともすればありきたりな一片のストーリーを、季節に重ねて鮮やかに描き切った、渾身の一曲だと感じました。


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