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【エッセイ】青空に羽ばたきそうな洗濯物

太陽を抱き締めて
水滴を風にあずけ
私の心も
洗濯物と一緒に
軽くなる

家で過ごす休日の、大好きな時間。それは、ベランダのある窓の近くで干してある洗濯物を見るときだ。青空の下、太陽の光に包まれ、やわらかい風で揺れ動くTシャツやパーカー、タオルたち。私はそれをほくほくする気持ちで、うっとりとみつめる。するとだんだん仕事の疲れも、もやもやした感情も消えていくのだ。

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「明日からは、仕事が終わったらここに帰ってこれるんだ」

荷物をすべて運んで、ガスの立ち合いも終わった家を見て笑みがこぼれた。一人暮らしの1Kは、家というより広い一人部屋のようだなと思う。

道路沿いに建つ、7階建てのマンション。部屋は5階にあるのに、夜寝てるときに道路を歩く人の声がすぐ耳元で聞こえるような場所だった。酔っぱらって大声を出す男の人、甲高い声で笑う女の人。たまに聞こえてくる電車が通る音。どれも不思議と嫌じゃなかった。

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私が一人暮らしをしようとしたのには、ワケがある。一人暮らしをしている会社の先輩に憧れたからだ。笑顔が素敵で仕事ができて、優しくて、ヨガを習ってる。しかも自立してて、家事もできるなんてすごすぎると。「私も、料理ができて自立した女性になりたい。一人暮らししよう!」。

そう思い立って、さっそく父親に「一人暮らしをしたい」と話した。しかし、なかなか許してもらえなかった。「家事なんかできないだろ。それに今は危ないから心配」という理由だったが、きっと娘が離れていく寂しさもあったのだろう。何度か交渉し、やっとOKをもらえたのは初めてお願いしてから1年後。「まずは1年、試しに一人暮らしさせてほしい」という説得に父親が折れてくれた。

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結局、その家には4年住んだ。借りたときはホットヨガを習ったり、毎晩外食したりする余裕があった。しかし、昔からの夢を叶えるためにと転職をし、生活が一変した。

それは主に金銭面。前職の給与の関係で、ごっそり引かれる税金がかなり痛かった。節約するために朝食は抜いて、お昼はお弁当。毎晩の夕飯はコーンフレーク。たまに納豆ご飯…。この先、生きていけるのか、こんな辛い思いをして自分の夢に近づけているのか、ベッドで毎晩のように泣いた。

あるとき妹に「ビンボー生活してる女性が出るテレビ番組、私も出れそうじゃない?」と言ったら「そんなキレイな家に住んでるんじゃムリだよ」とばっさり。確かにキレイで、当時の私にとっては家賃が高かったため、お財布を圧迫していた。

そうまでしても実家に帰らずに一人暮らしを続けたのは、その家がとても住みやすかったから。窓から入る光。優しいフローリング。明るくなれる空気をまとった部屋だった。そして、窓から見える景色も街も大好きだったのだ。

何度も心が折れそうになったが、職場の方や周りの方のおかげでなんとか夢は叶った。泣き顔だけじゃなく、幸せな笑顔も"家"に見てもらえて良かった。そして今私は、新たな夢へと歩み始めている。

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「洗濯物が喜んでる」

そんな風に言いながら、洗濯物を干してくれる人と新しい家で一緒に暮らしている。干してある洗濯物を見るのが好きという、私と同じ感覚の人。この穏やかな時間を一緒に共有できることがとても嬉しい。

青空へ
今にも羽ばたいていきそうな
洗濯物たち
そう感じるのはきっと
あなたと見ているから

#はじめて借りたあの部屋

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