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2020年2月の記事一覧

美しく燃える森

電車の扉が閉まった時にタイムスリップ出来ることを思い出した。
微かな記憶ではあるが、前世では自分にとって都合の悪いことが起こるとしばしばそれを利用していたことや大切な誰かかが亡くなった時には最後に会いに行ったり(どれだけタイムスリップしても人の生き死にまでは変えられなかった)していたことを思い出した。
その日僕は現世で初めてタイムスリップをした。もう一度会いたいと強く願ったからだ。

彼女とは

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ある饒舌な理不尽

もし、例えばだけど、私があなたに別れたいって言ったとするでしょ?私達、つまり女っていう生き物は半分止めて欲しいけど、もう半分は本当に別れたいと願ってるのよ。
少しも情がない訳では無いし、嫌われたくはない。だから、私は押し付けずに願望を示すだけなの。でも、決してニュートラルに半分ってことは無いから、その時の51:49みたいな傾きを感じてそっちに背中を押してもらいたいの。

それを僕は、つまり君なりに

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寂しいのち、曇りの兎

澄んだ空の下で洗濯物を取り込みながら、僕は大学の後輩のウサギについて考えていた。彼女はくしゃっと笑い、掴みどころのない人物で僕が知る限り19歳まで貞操を守っていた。

ウサギとは大学二年生の後期にイギリス文学史の授業で知り合った。確か、ディストピア文学の講義でトーマスモアについて教授が熱弁しているのを数名を除いて全ての学生が聞き流していた。授業後、ウサギは僕に話しかけてきた。
「タグチくん、でしょ

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