見出し画像

会社を売却する際の落とし穴;なぜそこで1択?

本当は事業承継問題や業績不振により会社を売却したいとなった際のコンサルティング(高く売るためのアクションのサポートや、どんな仲介会社に任せるべきか、など)が最も貢献できるという自負がある私ですが、ここ1-2年は中小企業を直接M&Aで買い受けませんか?という打診をM&A仲介会社様から連絡をいただくことの機会の方が圧倒的に多いです。
それはそれでとてもありがたいことです。そんなに潤沢に資金があるわけではないのですが…。

ただ、ほとんどの場合は早期に「うーん、これは話がうまく進まないだろう…」と思って辞退しています。

「なぜその価格?」に対して誰も答えられない


それは、売却対象の会社様はそれぞれ魅力的であったり興味深い点があったとしても、諸条件が吊り上げられすぎてしまっているので、単純に価格と見合わないのです。

と、それ自体はもう5年以上前から起こっていた事態で、特段珍しいこともありません。一度、現代ビジネスの記事「中小企業が泣き寝入りするしかない「M&A仲介業者」の「塩対応」が招いた悲劇」でも記述しました。

(M&A取引額に比例する)仲介手数料を稼ぐために、標準的と言われる価格からかなり高く売却希望額を仲介会社が主導して設定して、それに応じる「それでもいいという懐の緩い相手」を時間をかけてでも探索するというものです。

「時間をかけてでも」には、都合の良い相手に出会う確率を高くするメリットがある一方で、事業やオーナーの状態が変わりうるリスクをはらみます。最悪、オーナーが亡くなられた事例もありました。

しかし残念ながら、時間を重視する判断は二の次になっている(誘導されている)ことがほとんどです。

なぜならば、仲介会社にとってみれば具合が悪くなれば別の取引の成立に邁進すればいいだけという事情があります。仲介会社はその会社様に徹底的に寄り添わなければいけない制約があるわけではありません(口では何とでも言います)ので、自分たちの都合を優先させることが合理的だからです。

ただもちろん、担当者によっては温度差は多少はありますし、小規模の仲介会社のなかには自分たちの利益を少し犠牲にしてでもクライアントに寄り添う方々もいます。ただ、非常に稀です。

先日、また新しい疑問に思うケースがありました。

元々は苦労して築き上げた製造システムによって営んでいたメーカーなのですが、M&A仲介会社の「身軽に」という指南により、製造をほぼ全て外注にし、人員も最低限にして固定費を変動費化していました。

電話を取る人もいなくなったので全部社長さんの携帯にかかってくるようになっているので、話している間も頻繁に中座します。当然、後継者候補なんていません。

おかげで利益は一段上がり、事業のコアである企画・設計・メンテナンスなどのノウハウは全てオーナー社長の頭の中に「集約」されていました。

それだけガラッとオペレーションを変えたのはお見事でした。

「ドヤッ」という顔をしながら説明する社長さんに「そんなことできるのは稀有なことです。ただ、利益水準は上がりましたが、負債が大きいので理屈上の株価はそこまでは大きく変わりません。
一方で、とても売りにくい状態になってしまっていると思います。現に、「すみません私は今の状態では買い請けは検討できません。投資ファンドなどもまず二つ返事でそう判断するでしょう」とお伝えすると、目を見開いて「え?!」という反応をされました。
(理由の解説まで書くととんでもなく長くなりますので、興味のある方はお問い合わせください)

数々の売却活動に失敗している事例に共通するのは、「最初に話した仲介会社(の担当者)をあっさり信用している」ことです。製造業や小売などを長年されてきたかたはモノを買う時には必ず複数比較すると思うのですが、自分の会社を売るという最重要な局面で取引先を1択で済ませてしまっています。

加えて、判断材料が揃う前に、逃げられない一方的に不利な契約を結んでしまっていることが事態を深刻にします。

私は割と青臭く、こうした事例は少しでもなくなっていくべきだと思っています。ですので、自分のお金にはちっともなりませんが、ほとんど啓蒙活動的のような解説をことあるごとにしています。

ですが残念なことに仲介会社にとっては最も儲かるやり方(不動産と一緒で、売り案件を独占的に抱えば圧倒的に儲けやすくなります)で、大手ほどそうしたやり方を推進していますので、一向に数は減りません。

会社の売却を考える方がいましたら、1択で決めるよりも、セカンドオピニオンを取ることを強くお勧めします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?