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南北アメリカ自転車縦断 アラスカ(2)

アラスカに行って絶対にやりたかったことは「デナリ山(かつてはマッキンリー山と呼ばれていた山)をこの目で見ること」だった。

デナリ山は北米最高峰の山であり、もちろんそれだけでもすごいのだが、私にとって(そしてきっと多くの他の日本人にとっても)、デナリ山は何より「冒険家植村直己氏が遭難した山」である。彼の「青春を山に賭けて」という本は私の愛読書であり、読んだ回数は数えきれないほど。そんな私にとって、アラスカを旅する以上、デナリの訪問は欠かせなかった。

普段は旅の計画なんか全く立てないと言っても良いくらいのズボラ人間である私だが、アラスカのガイドブックには「シーズン中のデナリ国立公園内の人気のキャンプ場は予約受付開始後すぐに埋まる」と書かれていた。

アンカレッジからデナリ国立公園までの距離を考えると、余裕を見ても1週間もあれば着けそうだったので、国立公園内で圧倒的一番人気であるワンダーレイクキャンプ場を、アンカレッジ到着1週間後の2日分、日本出発前に予約しておいた。今回の旅行では事前に予約を取ったのはアラスカ行きの飛行機とこのキャンプ場だけだった。

アンカレッジで2泊して装備を整えてから、6月13日にいよいよ南米最南端のチリを目指して出発!

まずはデナリ国立公園へ行き、その後アラスカ第2の都市フェアバンクスへ行く。600km近く北上することになる。(あれ、南を目指すんじゃなかったっけ???)

数日後、あるキャンプサイトではクマに襲われないようにするために「食料は車の中かフードコンテナの中に入れておくように」という掲示があった。

もちろん、車はないので、フードコンテナに入れるしかないが、どこにも見当たらない。

無人だったので誰かに聞くこともできない。面倒なのでテントの中にしまったが、別に大丈夫だった。

仮にクマが食べ物のにおいを嗅いだとしても、それと同時に汗まみれの人間のにおい(←もちろん私のことです)も嗅ぐはずだから、さすがに襲ってはこないだろう、と考えたのだが、実際のところはどうだったのか、もちろん分かるはずもない。単にラッキーだっただけかもしれない。(でも、それ以降も食料はずっとテント内に置いていたが、一度も動物に襲われることはなかった。)

ちなみに、私はそれまでも野生のクマには何度か遭遇しており、クマが怖いとは全然思っていないのだが(クマを見つけたら追いかけます(笑))、アラスカで怖いと思った生き物はハエである。

アラスカのハエは巨大(日本のハエの3~4倍?)で、自転車で走っていると寄ってきて手のひらにとまり、汗の塩分を採るためなのかどうか知らないが、手の皮膚をかじってくる。かじられると非常に痛く、下手すると(ほんの少しだが)出血する。

追い風の時は大丈夫だが、向かい風のときは自転車のスピードが出ないので、彼らが寄ってきても振り切れない。ハエごときにやられるばかりでは癪なので、ぶっ叩いてやろうと思うのだが、自転車に乗りながらではなかなかうまくいかない。アラスカでは何回もこの忌々しいハエに襲撃された。奴らマジで狂暴です。

デナリ国立公園に入る前にデナリ州立公園があり(ややこしい)、そのインフォメーションセンターにこの地域の歴史を伝えるパネルがあったのだが、そこに面白い記述があった。

太平洋戦争中、コガという人が操縦するゼロ戦がアラスカのとある湾に不時着した。彼は助からなかったが、そこは沼地だったのでゼロ戦自体は無傷だった。通常パトロールをしていたアメリカ人がそれを発見、当時世界で最も優れた戦闘機であったゼロ戦の機体はサンディエゴの空軍基地に送られ、徹底的に研究され、ゼロ戦に対抗できるような戦闘機の開発につながった。

まさかアラスカのど真ん中の州立公園の中で日本に関連するものが出てくるなんて、なかなか感慨深いものがあった。

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