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4のひとつ前のクローバー・ナイト。|ショートショート

1、2、3、4、5・・・。
いつからか、数えるのはもうやめてしまったけれど、少しずつ少し少し少しずつ前進んでいる、と思っているの私だけでめちゃくちゃ乗り遅れているのかもしれない。

でもそれを確認するには、まずはこの人生をやり切らなきゃならなくてだからまだあきらめるまでは、最後の最後に答え合わせをするまでは、結果何かわからなくって、むしろ死んだ後だって評価されたりするのだから、死んだからって諦めることはおかしいのだ。

私が何にこんだけびびってるかって言うと、明日面接があって、とにかく落ちまくっている私は死後の世界に意識がふっとぶまで落ち込んでいる。

面接という場所は、面接官が私という人間を審査する場所だ。

私をジャッジするために存在し、それで金を稼ぐ人間が目の前に座る。

もともと生身の人間なんて得意じゃないのに、自分をジャッジしようとしているよくも知らない人間が私のことを根掘り葉掘り聞いてくる。

しかも相手は自分のことを一切話さない。これは人間の営みとして正常であるはずがない。

とか何とかいう愚痴をひたすら目の前にあるものたちに投げつけていたら、節度のある友人たちは皆、薄ら笑いで電車の中へ消えていった。

しかしまだまだくだを巻き足りない私は、モヤのかかった頭でずっと前に連れていってもらったバーを探していた。
こうゆうときは、お金を払って愚痴を聞いてもらうにかぎる。

「いらっしゃいませ。」

暗がりでよく見えないけど、明らかに整った顔のバーテンダーがこの時間に似合わない爽やかな笑顔をよこす。

移動している間にすこし落ち着いた私は、ほぼほぼ初対面の人に愚痴をきいてもらうのも人間の営みとして不自然だとおもいながら、気が抜けて息をついた。

「すみません。ぼぉっとしてしまって。」

「大丈夫ですね。それが、あなたのベストなペースですから。」

少しズレた返事をしながら、私の頭の奥の方を見透かすような、グレーの瞳をまっすぐこちらに向け、バーテンダーは続ける。

「3です。4(シ)の前は。3は楽しむ数字なんです。これはあなたに。」

そう言って差し出されたカクテルは、くすみがかったブラウンをしていた。

「クローバー・ナイト。優しい甘さに包まれて今日は休んでください。」

言われなくてもそのつもりだが、どうせ休むならイケメンの顔をみながら、のんびり休もう。

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