七つ祠のものがたり(仮)第2話|長編小説 連載
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ガンガン鳴りひびくドラムは警告音だろう。
足りない……。頭の中で鳴り響く。
強い渇望が全身を駆け巡る。
「じいちゃん!」
不安に駆られて跳ね起きると条条屋敷の何時の部屋の壁が見えた。
「椎もう大丈夫だ。もう家だ。まだ寝てろ。」
甚次郎の顔にはやけどしたような跡があるが、それでもいつものぎごちない笑顔を見せた。
その横には、村長の娘志岐が、どっかと座りこちらをみつめていた。
「椎。寝るのはちょっと待ってほしい。話を聞かせてほしい。」
自分と真逆のことを言う志岐にむっとしながら睨みつける甚次郎を気にもせず、志岐は続けた。
「祠がおかしい。椎には何か見えたと聞いた。私もあの場所に行ったが何も見えないんだ。ただ祠の異変は感じる。何が見えたのか教えてほしい。」
志岐と話すのは、10歳の舍払い以来である。
7年ぶりに間近で見る志岐は、不安になるほど美しい。
2人一組で踊る舞の相手は決まって志岐だった。
繊細な見た目を裏切る堅牢な手のひらの感覚や、筋肉の熱さ。ながれるように動くしなやかな背中のシルエットは今でも覚えている。
不安な様子で椎を見下ろしながらふりしぼるように志岐は口をひらいた。
「椎わたしはやらなければならない。祠はとても危険なものなのだ。」
「見えたのは、熱い光のかたまりだよ。祠から出て私の周りを取り囲んでいた。あれが見えた時ぐっと頭が痛くなったんだ。」
大きな熱が具現化したようなあのエネルギーをどう表現したらよいのかわからなかったが、椎にはそこまで危険なものだとは思えなかった。
いいかげん寝かせろとせっつく甚次郎においだされるように、椎はまた明日来る、と言って帰っていった。
「もう寝れえ。」
じいちゃんの優しいだみ声が聞こえる。
こんどこそ椎はゆっくりと、深い眠りに落ちた。
……
また遠くから声がした。
鈍い頭痛はあるもの体の様子はいい。
いつもより早く目が覚めた椎を待っていたものがいた。
志岐は昨日の言葉通りに、朝早くから家の外で椎が起きてくるまで座っていたらしい。
昨日の続きをしようとする志岐を甚次郎が止めに入った。
「椎はまだ調子がよくない。祠に行かせるつもりはない。」
しかし椎は、祠の変化を今ここでも感じていた。危険を感じるわけではないが、違和感はある。この違和感は気分が悪い。
止めに入る甚次郎をなだめるよう椎は言った。
「じいちゃんもう大丈夫。わたしも祠が気になるんだ。あれからなにがあったのかわからないけど、今祠は落ち着いている。近づいても問題ないと思う。でも何があるのかしっかり確かめてこなければならない。志岐には見えないというのだから。」
「しかし、それはうちの、珠代家のすることではない。祠のことは展代の仕事だ。これはそう決まっているものなんだ。」
志岐が言っていた言葉を思い出す。
「祠は危険なんだ。」と。
それは村が危険になるということなのだろう。椎をのけものにしてきた村がどうなろうとしったことではないが、自分を男手1つで育ててくれた甚次郎への想いはあった。
志岐の話を聞かなければ。そして祠を見にいかなければならない。
甚次郎はもう懲り懲りだった。
椎が傷つくことを恐れて人とのかかわりを避けてきたのだ。籠に入れて大切に大切に守ってきた。暖かい布団と飯と汁、それにやるべき仕事と椎がいれば甚次郎は満足だった。
村の発展や掟もどうでもよかった。とにかく心身ともに椎には傷ついてほしくないのだった。
椎の母である甚次郎の妹、頚は沢山傷ついて傷ついて最後には死んだ。もうあんな思いはしたくない。
甚次郎が苦い思い出を振り返っていると声が聞こえた。
「甚、ちょっと話を聞いてくれ。」
甚次郎を甚と呼ぶのは、この村でただひとり。
七屋の村はずっと昔から志岐の一族展代家が統治してきた。一方的な支配ではなく村全体を家族のようにして、皆で栄えてきたのだ。
村の者にとって村長は家長のような存在だった。
現村長志岐の父である展代拘七は展代家の血筋そのままの男で約束を破ることを許さない。
村が栄えるための小さな掟を守らない者へは容赦しなかった。代々受け継がれてきた掟には1つ1つ意味ある。それを守り伝えるために展代家は存在するのだ。
娘である志岐にもそう教え育ててきた。今それが揺らごうとしている。だから今回珠代に頭を下げるのは展代拘七にとってあってはならないことだった。
しかし娘の志岐には祠の熱が見えない。
展代家の者は代々、祠の異変に気づく能力が備わっているはずなのだ。
武術にも長けており、頭もいい。女でなければ、それもあったのかもしれない。しかし志岐は女だった。
展代家は男子が生まれる家系のはずである。それは先祖からの縛で、必ずそうなるはずなのに志岐は全ての縛りから抜けて生まれた異端児だった。
だからこうして珠代に頼まなければならないのだ。
椎のことは小さな頃から知ってはいるが、舍払いでもたいした才覚はなかったし、甚次郎が村との関係を断っていたため詳しくは知らなかった。
しかし珠代の子が見えるというのも聞いたことがない。我々の代でなにか今までと違うことが起きている。
今はもう見える者に頼るしかない。展代拘七は、扉ごしに甚次郎へ語りかけた。
「甚、祠の管理は我々で執り行うものだ。珠代のものの介入する事ではない。しかし祠の怒りが志岐には見えない。今祠の怒りが見えているのは椎だけなのだ。
祠の変化は良い前触れではない。どうか力をかしてほしい。」
そんなもの知るか、と甚次郎が返そうとした横から椎が声を上げた。
「じいちゃん、わたしやるよ。まずは祠の様子を見てくる。私にはなにもできないんだから見るだけ。あとはたぶん志岐がやってくれるんだろうよ。」
椎は思った。私はじいちゃんとのんびり過ごせればいい。
ただそれだけの小さな願いなのに。
祠が落ち着いていないと、村に危険があるだって?
祠が私のをじゃまするなら、私が祠をとめてやる。
2場:主人公が目的を持つ 完
【あとがき】
今回から長編小説がスタート!
第2回目は『第1幕:問題提起2場:主人公が目的を持つ/2100文字』でした。
元にしたプロットはこんな感じ。
それでも足りないプロットをこちらで追記
ルビをふらないと読めないような名前をつけちゃったもので、ルビを
つけると正確な文字数がわからない……。これどうしたらいいんだろ?
ひとまず2100文字よりは多めに書いてみました。
なんだか椎が最後ちょっとムカついたからやってやろう!となったのはいいんだけどそんな怒ることがあったかな?というかんじ。
怒りがでるほど不遇でもないような……。でも母親を出すことになって、母親の死に村長の兄弟が関わっていたりしたらちょっと甚次郎は怒ってるかも。それをねじ曲がって聞いていた椎は、この村のシステム自体に怒りを覚えているかもしれない。
それなら怒るのも納得だけど。
こうなるとセカンドストーリーで椎の母のものがたりも必要になってくるな。ちょっと話が大きくなりすぎてるな。
セカンドストーリーは心の中で展開させておくとして(妄想してたら、めちゃくちゃ複雑になってきて、ついには家系図を書き出している。)
次回は……
七つ祠のものがたり(仮)|長編小説 連載『第2幕:挑戦と挫折 第3場:最初の課題/2100文字』
です!
※毎週土曜更新と宣言しておりましたが、家族の事情により時間がとれる日曜更新に変更!
日曜日更新の「小説で商品を作る方法」を土曜日にしようとおもいます。
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※今回時間のかかったこと
名前を全部決めていなかったので、書きながら調べながら付けていたのでけっこう時間がかかった。今日はたっぷり時間がとれたのでよかったけど、毎週こうはいかないのが家族がいる人間ってものなので、時間をみて名前どんどん決めておこう。
名前関連メモ
展→広くひろげること。また、広くひろがること。
代→位置や役割を他のものと入れかえる。かわりのもの。
珠→貝の中にできる丸い玉。(特別、宝)
拘→とらえる。つかまえてつなぐ。
頚→首
最後までお読みいただきありがとうございました! 頂いたサポートは全力で全力で書くことにを続ける力にします。