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聴けなくなった歌 #2「米軍キャンプ」尾崎豊

「夜の世界の女の子を好きになった奴って、絶対この曲聴くようになるよね」

したり顔で誰かがそんなことを話していたのを
聞いたことがある。

何わかったようなこと言ってんだか…

その時、その言葉を私は聞き流していたのだが
まさか自分がその当事者になろうとは…

今回ご紹介する「聴けなくなった曲」は
尾崎豊さんの「米軍キャンプ」です。



「『米軍キャンプ』って曲を好きな奴は大体みんな同じような経験してるよな」

・・・確か私が社会人になって2年目くらい
90年代の半ばくらいだったと思う

それは職場の先輩が言っていた言葉だった。


ならば

もしかしたらあの頃の私もまた
そうだったのだろうか?

それとも彼女は
ただ仲のいい異性の友達だったのだろうか?

それは今でもなんだか釈然としない。

そんなほろ苦い体験を経たせいか
この曲から次第に遠ざかっていった。

それが尾崎豊さんの歌う
「米軍キャンプ」と言う曲である。

私が初めて就職した会社はホテルだったので

どちらかと言うと午後から夜にかけての
時間帯の勤務が多かった。

入社して1年が過ぎた頃
仕事が上がってから職場の先輩に連れられて

ある"夜のお店"…
いわゆるスナックに行く事になった。

そこはクラブの様な高級感はないが
キャバクラよりは慎みのあるイメージ
(当時はどちらも行ったことはなかったが)

最初は恐る恐る先輩の後ろをついて
酒を飲みに行っていたが

ある時期から自分でもボトルキープして
1人で飲みに…と言うよりは
女の子と話に行くようになり

その中にはすっかり打ち解けた女の子がいた。

お店では「Kさん」と呼ばれていた
その女の子は年も同じで

いつも私とはお店で口喧嘩ばかりしていたが

先輩曰く「喧嘩するほど仲がいい」
ように見えたらしい。

しばらくするとお店が終わった後、
2人で一緒に別の店に飲みに行く、

なんて事もごく自然な流れだった。

次第にKさんとは同伴出勤だとか
お互いの誕生日にプレゼント交換だとか

着実にプライベートでも距離が縮まり

「夜の世界」の女の子と
「昼間」に遊びに行く機会も増えた、

そう、夏の海だとか花火大会だとか。

そして、その娘がお店を変わるたびに
私も行く店が変わっていった。

「周りから見ると付き合っているようにしか見えない」

そう先輩や友人からも笑われた。

それでも彼女はやはり夜のお店で働く店員、
私以外にも懇意にしているお客さんはいたし

指名が入れば別の席へ行く。

そこで親しげに別の男性と話す後ろ姿を
嫌でも見なければいけない、

毎回毎回、何とも複雑な心境で
その様子を見て見ぬふりをしていた。

そんな曖昧な関係が1年と少し続いたある日

「今日からね、私の友達がここで働くんだ」

笑顔でKさんが私にこう告げた。

彼女の友人の名前はCさん、

Kさんと同い年だから当然私とも年が同じで
更には音楽の趣味も近く
現役でバンド活動中だと聞かされた。

ノリもよくて共通の話題が多い、
初日からすっかり打ち解け

私がCさんと仲良くなるのに
そう時間はかからなかった。

最初の頃は私とKさん、そしてCさんの3人で
お店が終わった後も飲みに行き

明け方にラーメンを食べて始発で帰る、
なんてこともよくあったが

ある時から…そう、Kさんがお休みで
"3人が揃わなかった日"

「今日、Kいないけど…どうする?」
「ま、たまにはいいんじゃない?」

「…ふふ、そうだね」

この日を境に

私とCさん、2人だけでお店が終わってから
飲みに行く機会が増えてきた。

それからKさんは仕事が終わると、
「私、今日は疲れてるから」と

一人、タクシーで
家に帰っていくことが多かった。

気を遣ってくれていたのは明らかだったが
敢えてそのことを共に口にしなかった。

こうして当然ながら3人の関係は
次第にぎくしゃくするようになっていった。


そして"その日"もお店が閉店後
私はCさんと二人でバーへ飲みに行っていた、

そこでCさんから突然の告白を聞いた。


「私、来週から大阪で暮らすんだ」

「え?」

お別れは突然やってきた。


本格的に音楽活動に専念するため
彼女は関西方面へ進出するのだと言う。

「そっか…がんばれ…!」

「うん…見ててね」

私はただその突然の門出を
祝ってあげることしかできなかった。

きっと彼女のことが好きだったのだろうし
彼女もそのことに気づいていただろう、

なのに最後までその話題に触れることなく。

その日は早めにお店を出て
ブラブラと歩きながらずっと話していた。

二人ともかなり酔っていたので
どこかに座って休もう、と

2人が腰かけたのが2件の雑居ビルの間の
狭い狭い段差のあるスペース。


ビルの隙間に腰かけたまま僕たちは話し続け、
いつしかその狭い場所に座り込んだ状態で

互いに肩を寄せ合ったまま眠りにつき
そして朝を迎えた。


もう明るくなり始めた
未明のスクランブル交差点、

信号が変わった瞬間に背を向けると
別々の方向に向かって歩き出した。

「じゃあね」
「うん、かんばれ!」

あの日以来、私は
KさんともCさんとも会う事はなかった…


それから数年が過ぎたある日の深夜、
誰も観ないようなマニアックな音楽番組を観ていると

画面から聞き覚えのある声が聞こえた。

「そっか…がんばったんだな」

それは紛れもなくCさんの歌声だった。


「米軍キャンプ」を聴くと、あの若かった時代怖いものも何もなかった、
恐ろしく自由で無節操な自分を思い出します。


そして聴く度に悪戯に誰かの心を傷つけ
また自分も傷ついてきた

当時のほろ苦い思い出が心をよぎり

今でも「米軍キャンプ」は
"大好きなのに大嫌いな曲"のままです。

男女の心の繋がりや気持ちのほつれ…

まだ何も知らなかった学生時代から
聴いていたこの曲を

こんな形で聴けなくなったのは、
私が少し大人になったからなのだろうか?


ところでこの2人とはどこまでの関係だった?
それ聞くのは野暮ってもんですよ(笑)

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