下妻みどり

長崎のむかしと暮らし。著書『ながさき開港450年めぐり〜田川憲の版画と歩く長崎の町と歴…

下妻みどり

長崎のむかしと暮らし。著書『ながさき開港450年めぐり〜田川憲の版画と歩く長崎の町と歴史』『川原慶賀の「日本」画帳』『長崎迷宮旅暦』『長崎おいしい歳時記』。ZINE『プロシッサンの彼方』『「長崎手帖」をよむ』『11月18日を歩く』『長崎サウダーデ食堂』など。

最近の記事

庭の髪を切る

 庭用の手袋は、ワークマンの「棘を通さない性能最強」のやつだ。これだと、大抵の草や枝は手で刈れる。手袋をして庭に出ると、ついつい草をむしってしまい、そこからさらなる作業に発展し、長い時間が溶けることも多々あるので、庭の空気を吸いたいだけの時には、手袋をしないで出る。  うちの庭はけっこうワイルドなので、素手ではなにも触らない。暖かい〜暑い時期は、ほんのちょっとの時間でもネット付き帽子やアームカバーも欠かさない。絶対に刺される。絶対にだ。蚊ならまだいいが、ある夏の朝、草刈りをし

    • ラザニアとコッコデショ

       長崎の「長い岬」の先端、もとの県庁があった近くに、イタリア料理屋さんがある。前に行ったのはもう何年前だったか忘れたくらいだったが、ある日のお昼「いま行くべきはそこしかない!」と入った。ラザニアのランチセットを頼む。濃いめの味の茶色いものを想像していたら、トマトスープみたいなのがやってきた。ふわん、とろん、としていて、優しい味で、ゆで卵の刻んだのも見える。その時は心身ともに疲れていたのだが、一口食べるごとに、ありありと体にしみわたっていくのがわかった。  イタリア人といえば、

      • みんな飛び立って

        年末。 今年は、冬にユキヒロさんが死に、春に坂本さんが死に、夏に息子が転校&上京し、秋にはるちゃん(猫。15歳)が死んだ。 元テクノ少女とかあちゃん、過去と現在の自分それぞれと分かちがたく存在していたものが、一気にいなくなった。 さすがにはるちゃんが死んだあとは、どことなく抜け殻感に包まれてしまい、力の入らない日々が続いた。 そして最近、完全に滞っていた数年来の原稿が、少しずつ書けはじめている。

        • 定点観測

           年に一度、珈琲人町さん主催の、沖縄のアダコーヒーを飲む会へ行く。  もう11年目らしいが、たぶん、皆勤賞。もしかしたら一回休みもあったか?くらい。別にコーヒーマニアではないんだけど「目の前の風土から生まれるものを大切にしながらなにかを作り、人に手渡す」ということを、アダファームの徳田夫妻と、人町さんと梨沙さんのその時々のありようを通して、私自身、年に一度定点観測し、点検し、肝に銘じる時間にしている。  古い時間や人の思いやできごとは、土や海の中に埋もれているという点では、野

        庭の髪を切る

          薄皮

           遠い空の下の息子が18になり、クレカを作ったというので、さっそく?だの、気をつけて、だの、つい小言を発出したら、こっちに来てからしっかりやってる、と返された。たしかにそうだ。バイトのこととか、とにかく、なにを聞いてもしっかりした答えが返ってきて、しかも有言実行してる。私より、はるかにしっかりしてる。  家にいたころと、目に見えるところを単純に比較したら、ぜんぜん違う人みたいだけど、それは目に見えてる薄皮みたいな部分の話だ。そのすぐ下には、はちきれんばかりの「しっかり野郎」が

          倍増と半減

           息子が生まれたあと、突然、洗濯物が増えた。新生児はバスタオルやらなにやらあるから、当然といえば当然なのかもしれないけれど「こんなに小さな人間なのに、ほぼ倍になった!」という驚きは大きかった。  それから17年と10ヶ月、息子は家を出た。すると、洗濯物が半分になった。半分以下と言ってもいい。娘もいるのに半分以下とはどういうことだと思ったけれど、毎日洗濯するのに洗濯機はスカスカで、いつも無理やり洗うものを探す。たしかに、かなり厚手のパーカーやらズボンやら、一度着たら洗いやがって

          全員、息子。

           息子が上京して、ひと月半が過ぎた。息子は洋服にうるさい人で、東京に行ったらたくさんバイトして、好きな服を買うらしい。大量の服を「もう着らん」と置いていった。ダボッとしたトレーナーとかパーカーとか。  昨日、ふと見ると、夫婦ふたりと娘、3人ともが息子の服を部屋着にしていた。

          全員、息子。

          分知町のドミンゴ

           1614年の禁教令では、宣教師の国外追放が命じられた。しかし1618年、とっくの昔にいないはずの宣教師とそれを匿う宿主に対して「捕まえたら生きたまま焼き殺す」というお達しが出た。つまり彼らは歴然として存在していたのである。アビラ・ヒロンの『日本王国記』の(現存する)最終章「奉行・権六が首都へ出発するまでにこの市〔長崎〕で起こったこと」には、まさに宣教師と宿主が次々と捕まっていく様子が記されている。  十二月十三日聖女ルチアの祝日の夜十一時と十二時の間に庄屋 joya の屋

          分知町のドミンゴ

          「あと4年分」に対面

           長崎に滞在していたスペイン商人アビラ・ヒロンによる『日本王国記』は「大航海時代叢書」の11巻に、ルイス・フロイスの『日欧文化比較』とともに収められている。二十六聖人の殉教や禁教時の聖行列などの「現地レポート」が丹念に書かれていて、歴史的なできごとが生々しく迫ってくる。  しかし、収録されているのは1615年の3月の分までで、本当ならあと4年分が存在する。「11月18日を歩く」を作った段階では、それはまだ探し出せないままだった。よりによって徳安とモラレスが捕まった日で途切れて

          「あと4年分」に対面

          「11月18日を歩いた、その後」

           1619年11月18日に、長崎の西坂で殉教した5人の足取りをたどったZINE『11月18日を歩く』は、「本屋ウニとスカッシュ」「MAKIJAKU製作室」によるZINEイベント「UNI✖️MAKI✖️ZINE 2022」で、たくさんのかたが手に取ってくださった。『長崎手帖をよむ』に続く完全自家プリント手製本で、しかも『よむ』に使っている11号針ホチキスはまったく歯が立たず、事務クリップによる製本となった。本文92ページになったのは、挟口19ミリのクリップの限界がそれだったから

          「11月18日を歩いた、その後」

          ボソボソと400年前

           毎日がどんどん過ぎていく。夏休み、お盆、お盆明けの連休など。  お盆はさておき、みんな、自分が休みだからといって、私も自動的に休みだと思うのやめてほしいなー。  自宅就労母ちゃんの悲哀である。  このnoteの「長崎歳時記」もぜんぜん更新できないままで心苦しいが、体がひとつで、しかもその体が五十路をのぼるのに苦労していて、夏の暑さと湿気にも太刀打ちできず、すぐバテる。仕事もあんまりなくて、貯金の減りだけが超順調で、その方面でもかなりしんどい。息子にかかる大小の経費がものすご

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          いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第10回 ひなまつり、浜遊び

          季節感を深呼吸! いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第10回 ひなまつり、浜遊び いまに伝わる年中行事や風俗習慣を、江戸後期の長崎で生まれた「絵」と「文」ふたつの歳時記を中心に、一年かけてご紹介していきます。今回は、ひな祭りとそれにまつわるお話、そして浜遊びなどの風景を見ていきましょう。  「絵」は、町絵師で出島出入り絵師の川原慶賀が描いた「長崎歳時記」のシリーズで、原則として長崎歴史文化博物館のウェブサイト内にある「川原慶賀が見た江戸時代の日本(I)」か

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          いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第9回 節分 ~初午、上元、唐館龍踊り~

          季節感を深呼吸! いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第9回 節分 ~初午、上元、唐館龍踊り~ いまに伝わる年中行事や風俗習慣を、江戸後期の長崎で生まれた「絵」と「文」ふたつの歳時記を中心に、一年かけてご紹介していきます。今回は、節分。いまも盛んに行われていますが、江戸時代はどんなふうだったのでしょう?「初午」は、その年初めての午の日のお祭り。「上元」は、旧暦一月十五日の行事で、現在はランタンフェスティバルの最終日、ロウソク祭りとして知られています。この日、唐

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          いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第8回 お正月

          季節感を深呼吸! いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第8回 お正月 ~門松、子供の遊び、芸能民、絵踏み~ いまに伝わる年中行事や風俗習慣を、江戸後期の長崎で生まれた「絵」と「文」ふたつの歳時記を中心に、一年かけてご紹介していきます。今回は、一年の最初にして最大のお祭りごとである、お正月の様子を見ていきましょう。  「絵」は、町絵師で出島出入り絵師の川原慶賀が描いた「長崎歳時記」のシリーズで、原則として長崎歴史文化博物館のウェブサイト内にある「川原慶賀が見た

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          「長崎歳時記手帖」 第7回 年迎え

          季節感を深呼吸! いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第7回 年迎え いまに伝わる年中行事や風俗習慣を、江戸後期の長崎で生まれた「絵」と「文」ふたつの歳時記を中心に、一年かけてご紹介していきます。今回は、出島の商館長のメイラン氏「十二月にはただ来るべき新年の準備だけがある」と言った通り、まだまだ終わらない年越し準備の続きと、大晦日の様子を見ていきましょう。  「絵」は、町絵師で出島出入り絵師の川原慶賀が描いた「長崎歳時記」のシリーズで、原則として長崎歴史文化

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          「長崎歳時記手帖」 第6回 年越しに向けて ~餅つき、鏡餅、幸木~

          季節感を深呼吸! いまにつながる江戸時代の暮らし「長崎歳時記手帖」 第6回 年越しに向けて ~餅つき、鏡餅、幸木~ いまに伝わる年中行事や風俗習慣を、江戸後期の長崎で生まれた「絵」と「文」ふたつの歳時記を中心に、一年かけてご紹介していきます。今回は、年越し準備の様子と、鏡餅や幸木(さいわいぎ)などの飾りものを見ていきます。  「絵」は、町絵師で出島出入り絵師の川原慶賀が描いた「長崎歳時記」のシリーズで、原則として長崎歴史文化博物館のウェブサイト内にある「川原慶賀が見た江戸

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