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アーティスト・イン・レジデンス第二弾を行いました──入居者は福岡県筑後市を拠点とする現代アーティスト・陶芸家の平井亮汰氏

その場その場の「ものこと」を混ぜ合わせた焼き物を制作。2022年の11/05(土)-13(日)に、アーティスト・イン・レジデンス第二弾として福岡県筑後市を拠点とする現代アーティスト・陶芸家の平井亮汰氏による展覧会を開催しました。

みなさんこんにちは。水戸宿泊交流場の彩乃です。
オープンして3年目を迎え、ローカル暮らしを体験すべく水戸宿泊交流場をご利用いただく方が増え、嬉しく思うこの頃です。

5月には、初のアーティストインレジデンスで茨城県取手市在住、東京藝大大学院生の鈴木真緒(すずき まお)さんに滞在・展覧会をしていただきました。

第二弾となる今回は、福岡県筑後市で活動されている、陶芸家であり現代アーティストの平井亮汰(ひらい りょうた)さんに滞在いただき、11/05-13には、展覧会を開催いたしました!初の試みとして、オーナー中村彩乃との共作も制作中です。

※アーティスト・イン・レジデンス:アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる文化環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。またはアーティストの滞在制作を支援する事業のこと。AIRの実施目的としては、優れたアーティストの創作・生活支援、地域文化の振興、異なる文化を持つ国や地域とアーティストとの交流、情報や人的ネットワークの促進といった利点が挙げられる。

出典:美術手帖(https://bijutsutecho.com/artwiki/17

この記事では、今回の滞在の振り返りとして、平井氏の展覧会後記と、場への想いをご紹介させていただきます。

■入居者:陶芸家/現代アーティスト 平井亮汰(ひらい りょうた)さんの紹介

平井亮汰(ひらい りょうた)
1992 富山県生まれ
2015 大阪産業大学 工学部 建築環境デザイン学科 卒業
2017 大阪産業大学大学院 工学研究科 環境デザイン専攻 修了
2017 年より福岡県筑後市を拠点に作品制作を行う

略歴
個展
2017 「平井亮汰陶展」 ギャラリー白3 (大阪)
2018 「Fluctuation of ceramics」Space31 (兵庫)
2019 「Try and error」GALLERY CHIGGO (福岡)
2022 「そこにある物/ここにある事」水戸宿泊交流場(茨城)
2023 「ようのない器」Space31 (神戸)

グループ展
2015「Tokoname De International Humanisum」ギャラリーCEPICA(愛知)
2017「日韓交流展」ギャラリー kiraku(愛知)
2018「KOREA-JAPAN」ギャラリー kiraku(愛知)
「久留米まちなか美術館けやきとアートの散歩道」『牛島智子・平井亮汰二人展』 旧国武絣倉庫 (福岡)
2019「CAFN びわこ展」津市歴史博物館(滋賀)
「石橋文化センターアートフェスティバル『創造の森美術館』」 石橋文化センター(福岡)
「アート展閑谷」旧閑谷学校(岡山)
「杉田貴亮 平井亮汰2人展」男ノ子焼の里(福岡)
「久留米まちなか美術館けやきとアートの散歩道」真教寺(福岡)
2022「gallery cobaco 酒器展」gallery cobaco(福岡)
2023「土友の墓場」Kaikai Kiki Gallery (東京)
「プーノスカーヌ・プーヌ展」モリビ (福岡)
2024「東京の土」土友展 Kaikai Kiki Gallery (東京)

アーティストインレジデンス
2020 田主丸藝術研究所(福岡)
2022 水戸宿泊交流場(茨城)
2024 ASP(Artist Support Project) (ジョグジャカルタ)

作品例

Instagram
r_hirai_works

▲埋ミ焼 くっつき枯花入

▲藁白×飴釉掛け流し 片口

▲埋ミ焼 ぐい呑

創造の森美術館:石橋文化セ ンター
個展:MEIJIKAN GalleryCHIGGO

■展覧会を終えて

2022年11月5日〜11月13日までの間、水戸宿泊交流場にて個展を行った。以下はその展覧会ステイトメントである。 

そこにある物/ここにある事

かつてこの国の陶工たちはそこにある土や木を用いて焼物を作ってきた。茶
の湯が大成した桃山時代に御用窯として作られ始めた窯元の茶陶においても
そうである。桃山時代各地の産地において茶陶向けに作品の制作を指導した
「渡り陶工」たちも各地の陶土の性質や燃料の木材、取れる長石の種類において各地の技法を編み出していったに違いない。

 現代においてはどうだろうか。どの産地だとか原産国がどこであるとか関係なしに土や長石、灰に至っても、オーソドックスな焼物を作る上での材料であれば通販でなんでも手に入る。「そこで手に入る材料でできるモノ」から「作りたい物を作るための材料」に材料の在り方はシフトしてきた。

 今回、水戸に招聘され、私は自身の焼成技術と水戸宿泊交流場に滞在する
中での繋がりで手に入る材料のみを用い、この場に呼んでくれた建築家の中
村彩乃氏を巻き込みながら作陶と茶室を模した空間のインスタレーションを行う。私の憧れる桃山茶陶や侘び寂びの概念をインストールし、この場にある「ものごと」だけで全てを組み立てようと思う。

展覧会ステイトメント

 この展覧会は水戸宿泊交流の滞在制作とセットで行われた。滞在期間は10
月1日〜12月15日まででちょうど 2 ヶ月半滞在したこととなる。展覧会準備期間が10月1日〜11月4日までで、その先、個展の会期を経て、11月14日からは中村彩乃氏からオーダー頂いたやきもののクライアントワークを行う間、完全予約制として12月10 日ごろまで会期が延長され、実質1 ヶ月と少しの間、沢山の人々にお越しいただいた。

 展示に向けての制作や展示の内容としては、水戸から1番近い焼物の産地である笠間の土に、水戸で取れる原料をかなりの比率で調合し、水戸ブレンド土なるものを造り、その土で茶道具を制作。

 私が考案した焼成技法である「埋ミ窯」を制作、埋ミ窯にて焼成した茶盌を用い、自作した茶室の様なものの中で客人をもてなすところまでを行った。器の制作から、茶室や"しつらえ"としてのインスタレーションの設営、パフォーマンスやワークショップに至るまでを行った、フルパッケージの個展となった。タイミングが良い人は会期中に行った作品の焼成までを目撃することができ、我々陶芸家の営み自体が展示に意図せず組み込まれていったのは、我ながら興味深かった。

 ギャラリーではなく、ゲストハウス敷地内の小屋を用いた展示だった事が、展示だけではなく制作までをも展示する結果となったのかもしれない。

 ここまで私の出来うる、ありとあらゆる行為を展覧会に組み込めたのは、私を水戸宿泊交流場にお呼び頂いた、中村彩乃氏と同宿泊施設のスタッフさんたちのサポートあっての事だったと思う。この場を借りて皆様には深く御礼申し上げたい。

場への想い
 水戸宿泊交流場の建物は元々は投網漁の網を製作販売していた投網屋の店
舗兼住居だったらしい。現在では店舗部分はコワーキングスペースに、住居スペースはゲストハウスとなっている。そして母屋の裏には物置小屋があり、投網屋の頃から保管されていたものから、水戸宿泊交流場へリノベーションされ、不要になり保管され始めたものまで、新旧の家主のものが混ざりあいながら保管されていた。旧家主は網を作っていたからか紐の扱いにはかなり慣れているようで、あらゆるものを紐で縛り付けてしまい込む癖があったようだ。

 今回展示に用いた畳や、余った紐、日曜大工で作ったであろう棚におけるまで、収納や強度補強全てを紐で縛って行っていたのは興味深い。前の家主がこの小屋の中に車を停めていたらしい事も近所の方からお聞きしたので、土間の床の上には 5〜60kg ほどあるコンクリートブロックも 12 本ほど土間の中に埋まるような形で雑然と並べられていた。

 そこに水戸宿泊交流場のリノベーションに伴い不要になった建具類や、掘り炬燵の暖房ユニット、リノベーションに使ったであろう木材が加わり、私が展示をする前の小屋の内部空間が出来上がっていた。

 この新旧の家主による行動の集積が小屋空間を埋め尽くしていた様からは、とても散らかっているようで、ある一種の美しさを感じさせざるを得ない迫力、のようなものがそこにはあったと思う。 7 月に水戸に下見に来るまでは陶製のオブジェクトを配置したインスタレーションを展示案として考えていたのであるが、この「迫力」が私の頭に留まり続け、実際に10月1日より水戸の生活が始まってからは、「私の用いる『陶芸』という技術やそれに付随する文化体系までをも用いた、ここにある物を扱い、ここで何か事を起こして展示してしまおう」という考えが生まれてきたのである。『ここにある物/ここにある事』という抽象的な展覧会のタイトルは、そういった私の展示案の変化を起こすに至った、この小屋から受けた影響がそのまま表出したのではないだろうか。

 ではその影響を展示にどのように反映させたかというと、あらゆるものを縛り付けていた紐を設えとしてのインスタレーションに用いたり、建具で茶室的なものを作ったり、滞在中に焼成にて失敗した作品を弔う墓をコンクリートブロックで作ってみたり…、と様々で、とても一見しただけでは分からないものも多いが、あの展示そのものがあの場所そのものであったと、展覧会を振り返った今、そう思うのである。

■展覧会の様子

■パフォーマンス・ワークショプの様子

■さいごに

 「建替えられる建物から出た材料で、次の新しい家に繋ぐ焼き物作れないかなあ。」と、相談させていただいたことがきっかけで実現した今回のアーティストインレジデンス。平井氏の頭の中の体系と水戸のこの場所での気づきや潜在的な素材と掛け合わせ、その場でその場にあるもので組み上げた面白い展覧会になりました。滞在中、平井氏独自に水戸にあるコミュニティと接続していった点も興味深かったです。どんどん活躍の場を広げている平井氏の創作に今後も注目です!

水戸宿泊交流場も、今後もアーティストさんとのコラボレーションを予定しているので、ぜひチェックして遊びに来てください!!!


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