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Netflix「マスクガール」を観て【韓国ドラマ感想文】

※ネタバレあり感想文です。

全7話、息を吐かせないハイスピードサスペンス+ホラー

容姿にコンプレックスを抱えさせられた「普通の」会社員・キム・モミが、得意なダンスと歌を諦めきれずにマスクをつけて配信者として活躍、支持を集めていく。

ところが実生活で自身の勘違いの果てに思わぬ失恋を抱えて自暴自棄になって起こした彼女自身のトラブルが、やがて怒涛の半生のドラマを招いていき――という、人生一寸先は闇を地で行く、話の展開が全く読めない、ノンストップ・ハイスピードなサスペンスドラマ。いや、凄かった。

ルッキズムに翻弄された女性の物語、というだけでなく

発端こそ彼女が実の親からさえ否定された見た目が「美しくない」ことにあるものの、彼女自身の妄想力強め・エゴイスティックな性格は、だから仕方ないという風に決して好意的には描かれてはいない。彼女自身にも問題があったことを明快に描くことで、彼女のそもそもの厭らしさ、痛々しさをいや増している。

そうして彼女は結果としてふたりの男を殺めてしまうが、この男たちも相当問題があるというか到底好きになれない厭らしさをそれぞれ持ち合わせており、殺されて当然とはいわなくとも、かわいそうに、とまでは思えない。

そんな、厭な側面を持つ厭な人々の織り成す、ねっとりとしたドラマがどんどん展開していく。その厭らしいエゴの極まった人物が、被害者の一人、キム・オナムの母親、キム・キョンジャだ。彼女が終盤のドラマの中心となる。

終盤はキョンジャの独壇場

このキム・キョンジャ、ドラマを通していちばん怖い。

まるで自分の正義を疑わず、息子からも疎まれていたことにも気づかず、己の道を驀進する。息子が殺されれば、その殺人者を追うことにのみ人生をささげる。実は自分の息子の子だとも気づきようもなく、マスクガールの子どもに取り入り、軟禁し、殺そうと画策する。

彼女が怖すぎるので、終盤はジャンルがホラー化していく。まるでミザリーリスペクトかと……もう、演じたヨム・ヘランが巧すぎる。「グローリー」もでしたが、毎度すさまじい演技を魅せてくれる。

歪んだ親子関係ももうひとつのテーマだったのかもしれない

そもそもの話、キム・モミの母親が、モミの「アイドルになりたい」という夢を、あれほど残酷に否定しなければ、マスクガールそのものが存在しなかった。母親自身が美醜になんらかのコンプレックスがあったのかわからないけれど、子どもの歌と踊りの巧さをきちんと評価し、生かす道を支えてあげれば、なにもかも平和だったのに、と思う。

だから終盤になって、母親心を出してきた彼女には、いまさら遅すぎる、としか思えなかった。孫の存在がなければ、モミと共闘することもしなかったのでは、と。

惹かれたエピソードは4話。似た者同士の哀しい邂逅と別れが良かった

整形後のモミかとミスリードさせて現れたチュネは、ろくでもない男との縁を切りきれなかったが、モミとの出会い・友情の果てに、ついに縁を……今生から切ることに成功する。それは結局、身の破滅を招くのだけれど。

この刹那の二人の女性の友愛が、じゃれ合いがとても微笑ましく美しく、そして哀しかった。これはきっと最悪な形で終わると予感させられていたから。その予感は的中したけれど、ほんのわずかの間でも心から通じ合えた存在を得られたことは、互いにとって悪くはなかったんじゃないか、と。

ろくでもなかった人生での、ほんの一瞬のきらめきとして、まばゆく、印象的だった。

まとめとして最後に

「マスクガール」は、ルッキズムに翻弄され、性差別やネット社会・現実世界のいじめや序列社会をえぐく描き出しつつ、マスクをかぶり自己を隠蔽し、次に整形して外面を替え再出発を図り、それも失敗しやがて宗教によって改心し、と自らの外見と内面を幾度も変化させながら図太くしぶとく生きた、「キム・モミ」という女性の痛烈な半生を描き上げたドラマだった。

彼女の芯は、「みんなに好きになってもらいたい」、たったそれだけだったのに、ずいぶん霞み、歪んで、叶わない結果を呼び寄せてしまった。

それは近しい人々や社会の逃れられない影響もあったけれど、彼女自身の選択のせいでもあった。その現実的で、ある意味公平な描き方は、生々しく、どうしようもない空虚さをも感じさせた。

ハラハラとさせられつづけて面白く観つつも、重い哀しさが後を引いた作品だった。




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