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英国散歩 第10週|ロンドン、キングス・クロス再開発の見どころ(スポット紹介編①)

今注目のロンドン中心部の大型再開発プロジェクト、「キングス・クロス再開発」。

スポット紹介編である今回は、前編で整理した(あくまで個人的に特徴的/面白いと思う)「キングス・クロス再開発の見方」の4つのポイントも踏まえたうえで、エリア内の主要なスポットについて現地写真多めで紹介します。

※キングス・クロス回は前後編で閉じる予定でしたが、紹介するスポットの断捨離ができずボリューミーな内容になってしまったので、次回にまたがります。


再開発エリアの全体マップ

まずは、2016年時点の開発計画のマップで再開発エリア全体を俯瞰しておきます。

キングス・クロス再開発エリアは、キングス・クロス駅(図の右下)の駅前から北側へと広がる敷地で、約27万㎡(約67エーカー)の敷地にオフィス、住宅、商業、大学、ホテル等が立地します。
最終的には約50棟の建物が整備され、延床面積としては約74万㎡(約800万sqf)規模となります。

Argentによる当エリアの開発スキーム図(出所:The World Bank


用途別に延床面積を見ると、オフィス(黄色)が全体の56%、住宅(オレンジ色)が24%。商業(小売)(茶色)、その他(緑色)がそれぞれ1割程度となっています。

用途別ごとの延床面積(出所:The World Bank資料をもとに筆者作成)


2021年10月から11月半ばにかけて土日に現地を歩いた限りでは、オフィスや住宅などはまだ建設中のところも多くありましたが、商業施設はおおむね出揃った印象で、週末の賑わいとしては完成形に近かったのではないかと思います。



さて、それでは早速、各スポットの紹介に移ります。
まずは前編の「見方」でも言及した歴史的建造物について。

生まれ変わった歴史的建造物

かつて鉄道輸送の拠点としての繁栄、衰退を経験した当エリアには、多くの「廃墟」と化した建物がありました。
キングス・クロス再開発では、国指定建造物(listed buildings)を含め20の歴史的建造物が再開発後の現在も産業遺構として保存、活用されています。
そのうち主要な3つのみピックアップします。


①グラナリー・ビルディング

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現在のグラナリー・ビルディング(The Granary Building)

その名の通り、かつては小麦を貯蔵していた建物(granary:穀物倉庫)。
現在は、世界的にも有名な芸術大学の超名門校である、ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins - University of the Arts London)のキャンパスになっています。

1852年完成の旧建物(GradeⅡの指定建造物)を保存し、その裏手に増築する形でキャンパスが拡張されています。
旧建物部分の1階には飲食店、カフェなどが入っています。

6層吹き抜けのエントランスホールでは、かつての建物のファサードをバックに卓球を楽しめます
エントランスホール部分を外から見ると、右手に旧建物の頂部、左手に今回整備建物の頂部が見えます(少しわかりづらいですが)
エントランスホールからキャンパスへ続く通路。コロナ禍だからか厳重に封鎖されていました
旧建物部分に入っているカフェ・CARAVAN。建物正面側にもテラス席が出ています
グラナリー・ビルディング(写真右)の1階には飲食店やインフォメーションセンターなどが並びます。写真左は旧石炭貯蔵庫を再生したコール・ドロップス・ヤード



②コール・ドロップス

再開発前のコール・ドロップス(The Coal Drops)(出所:King's Crossウェブサイト

グラナリー・ビルディングと同様、1850年代に作られた東西2つの建物からなるコール・ドロップス。こちらもその名の通り、石炭(coal)の貯蔵に使われた建物でした。

また、再開発前には、ビクトリア朝時代の高架橋部分が映画撮影のセットとして使用されたり、アーティストの創作活動の拠点になったり、ロンドン最大級のダンス音楽イベントの会場に使われたりしていたとのこと。
エリアの治安悪化の一要因となっていた可能性は否定できませんが、ここがかつて「文化・芸術の発信拠点」だったことは確かだと言えそうです。


現在、そのビクトリア朝時代の建物(GradeⅡの指定建造物)は保存され、新たにヘザウィック・スタジオ+アラップの設計により、50のショップ、レストラン等が入る商業施設「コール・ドロップス・ヤード」として生まれ変わっています。

これまで2棟に分かれていた建物はシンボリックな屋根で1つに結ばれており、その結節部分にはSamsungのフラッグシップ店(Samsung KX experience space)が入っています。

2棟が新たな屋根で結ばれ一体化したコール・ドロップス・ヤード(Coal Drops Yard)
様々なショップ、レストランとともに、サムスンの体験型店舗も入っています
夜のライトアップでその形態の印象がより強まります
アーチ状の窓が短スパンで連続することで、実際の店舗数以上に多様性を感じます
サムスンの店内。期待を裏切らないダイナミックな内部空間。
建物東側のロウアー・ステイブル・ストリート側(次回触れます)
地上階(イギリスでいうGround Floor)のフロアマップ
2階(イギリスでいう1st Floor)のフロアマップ
3階(イギリスでいう2nd Floor)のフロアマップ
2棟がつながる屋根部分で、サムスンの店舗のみです



③ガスホルダー


現在のガスホルダー・パーク(公園)とガスホルダーズ(集合住宅)

1850~60年代に作られた「ガスホルダー」。
ロンドン最大のガス工場(Pancras Gasworks)の都市ガスの貯蔵用に建設された施設の一部(架構)です。当時、ガスは石炭を用いてここで製造されており、ガスホルダー自体は20世紀後半まで現役だったとのこと。

4つのガスホルダーはいずれもGradeⅡの指定建造物で、一時的に解体・撤去され、修復された後にこの地に移設されました。

現在、直径約30mで4つの中では最大の「ガスホルダーNo.8」は円形公園「ガスホルダー・パーク(Gasholder Park)」に生まれ変わり、もともと連結された構造体だった「ガスホルダーNo.10,11,12」は、その名も「ガスホルダーズ(Gasholders)」という集合住宅になっています。


今回の訪問時、残念ながらガスホルダー・パークは再整備中でしたが、普段は緩やかな起伏のある芝生広場で、目の前に流れるリージェンツ運河を眺められるスポットです。
王立英国建築家協会(RIBA)によるRIBA London Award 2018も受賞しています。

当時の部材が今も意匠的に使用されています
ガスホルダー・パークを囲うように取り付けられた鏡面仕上げの天井と柱。
天井はランダムに穴が開いており、時間帯や使われ方で場所の雰囲気が大きく変わりそうです
普段は緑豊かな芝生が広がるガスホルダー・パーク(出所:King's Crossウェブサイト
高級集合住宅「Gasholders」に生まれ変わったガスホルダーNo.10,11,12(別名:Triplet)
ガスホルダー・パークの目の前を流れるリージェンツ運河。
水面を間近に感じる遊歩道が整備されています



これら以外にも多くの歴史的建造物が保存、活用されている当エリア。

エリアが持つ負のイメージを一気に払拭しようという大変革プロジェクトでありながらも、こういった歴史を物語る存在が多く散りばめられていることで「キングス・クロス」というエリアのアイデンティティが上手く保たれています。


次回「ロンドン、キングス・クロス再開発の見どころ(スポット紹介編②)」に続きます。

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