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陳情(お願い事)と見返り【三世議員のゆる政治エッセイ Vol.5】

 江東区の議員が入札情報を漏らして捕まった時、のちに逮捕される千代田区の嶋崎区議が「えっ、そんなことで捕まっちゃうの?」と漏らしたという。このコンプラ感覚には驚くが、かつては議員の仕事として当然に行われていたことが、いまでは許されないという話は多い。だから、今日おこなわれている「陳情の処理」が、あとになって「行政への口利き」として受けとめられることがあるかもしれない。

 一番わかりやすいのは「交通違反のもみ消し」で、大昔は交通違反は議員に頼み込めば警察に掛け合って、なかったことにしてもらえる時代があり、国会内の政府控室にそれ専用の窓口があったという。それだけニーズのあった陳情(もはや陳情といえるのかもナゾだが)だった。なお10年以上前の話だが、新宿区議会の故F先生が交通違反をしたときに「オレは区議会の議長だぞ!!」と凄んだところ、「関係ありません。」と即答で切符を切られた伝説があり、だとすると議員が交通違反をもみ消していた時代というのは相当な昔話である。

 ところで議員をやっていると、日々ご相談を受ける。陳情ごとは大小さまざまあるが、分類をするとこんな感じだ。

①個人的な相談事
例)どこそこの保育園に入れて欲しい、学区の学校の評判が悪いから越境入学したい、親を優先的に特養に入れてほしい

②公共性のある陳情ごと
例)家の近くの道路がデコボコで危ないから直してほしい、通っている学童がめいっぱいだから定員増やしてほしい、地域のイベントで学校の校庭を借りれないか

③政策的な要望
例)認可外保育園に通う場合も手当てしてほしい、年寄りが多いのに坂が多いから新しい交通手段を作って欲しい、ゴミのポイ捨てが多すぎるので条例を作って欲しい等

 議員の本業は議会活動だからといって、①や②のような頼まれごとを「それは議員の仕事ではなく、行政の仕事なので役所に言ってください」などと答えようものなら「あの議員はちっとも動いてくれない」なんてことを言いふらされ、政治生命にかかわってくる。

 公共性のある③はもとより②もだいたいの議員が対応すると思うが、①個人的な相談事は議員によって対応が異なる。
 私は陳情ごとの処理は議員の存在意義の一つだと思っているので、結果はどうであれ①~③まで対応することにしている。ただ、①はひどい相談だと、税務調査が入る予定だがなんとかならないか、区の〇〇事業を受注したいみたいな話もあり、こういうのはもちろんお断りする。

 で、公共性のある②、③は役所の幹部職員に掛け合ったり、場合によっては議会で質問したりするが、こうしたまっとうな陳情も、カネや票が絡んでくると急に話がややこしくなる。

 例えば、地元のニーズをくみ取って「坂が多くて移動が大変だから新しい交通手段を!」と議会で提案したとする。それを知った有権者が「あなたは素晴らしい!応援する!」といって寄付をくれる。あるいは事業に参入を考えている企業からぜひ推進してほしいと献金があったり、パーティー券を買ってくれたとする。議員サイドから、応援してくれるんだったら、党員になってくれ、月額数千円の党発行の新聞を取ってくれと依頼するケースもあるだろう。

 もともとは政策を実現したい議員の気持ちと、それを応援したい有権者、というピュアな動機だったとしても、カネや票がついてくると急に癒着やビジネス臭がしてくる。はたからみると「業者にお願いされたから質問したんじゃないか?」、「癒着してるんじゃないか」と疑問がわく。
「そんな寄付や献金、受け取らなきゃいいんだよ」と思うかもしれないが、「応援したい」、「寄付したい」という人に「いりません」とは普通は言わないし、議員にとって陳情の処理は日常の話で、かつ純粋に住民のためと思ってやっていることなので、法律はもとより倫理的な線引きを明確にしてほしいところはある。

 スーパーや商店で、良い商品が人気がでてよく売れるのと同じように、良い政党や良い政治家には支持(票)と資金(カネ)が集まる。もともと政治家が資金を集めて、活動の原資にすることは悪いことではなく、本来、求められている姿でもある。
 むしろみんなが、共感できる姿勢や政策を持っている推しの政治家を見つけて応援したらいいのにと思う。政治家のダメなところを見つけて批判するのは得意なんだから、逆があってもいいんじゃないか。

 ちなみに私は「政治とカネ」の問題については、税制改正で政治家への個人献金をした場合の控除を大きくして個人献金中心にしたらいいと考えている。そうすれば「政治家の資金調達市場」に競争原理が働いて、政治家は頑張って情報発信をするようになり、有権者も好きな政治家を応援するモチベーションができる。(そうなると一時的にはトランプさんとか、山本太郎さんとか、石丸市長とか極端で過激な人が有利かもね)

 という訳で見返りはいらないので、なにかお困りごと、ご相談ごとがあれば気軽にどうぞ。

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