やさしいお花 ~オーガニックフラワーという選択肢
花、暮らし、私 vol.21
つい先週まで、暑い、暑い! と薄着で出かけていたのに、なんだか急に秋めいてきましたね。花の仕入れがある早朝は、ひやっと肌寒く、長袖が必要に。なんとなくコーヒーが以前よりも恋しくなり、山の近くの森林公園に遊びに行くと、木々の葉っぱの先の方が、ほんのり色づき始めている。小道はふかふかの敷松葉。そんな姿を見ると、なんだか嬉しくなります。
秋口になると思い出すのが、三重県のある農家さんとの出会いです。
私がInvisible flowerを立上げてから、勉強会やポップアップ出店などを通して、サスティナブル・エシカル・フェアトレードなど、環境や働く人のことまで考えた商品やサービスを提供している方々と出会う機会が増えました。
そんな中で出会ったその農家さんは、自然農法・堆肥づくりのエキスパート。ちょうどコンポストを始めた私は自然農法に興味津々だったのですが、その中で出てきた「オーガニックフラワー」というワードに衝撃を受けたのを、今でも覚えています。
オーガニックフラワーとの出会い
“そういえば、野菜も衣類(コットン)もオーガニックの選択が増えてきているのに、花にはその選択肢がない…?“
長年花に携わってきて、そもそもそんな事を考えることもなかった私にはオーガニックフラワーのお話は目から鱗のような発見でした。
そう、お花にも「オーガニック」があるのです。
花のイメージとして、『きれい』『やさしい』『ナチュラル』…というイメージを持たれる方は多いと思います。もちろん間違いではないのですが。花は食べたり飲んだり直接体に取り込むものではないので、一般的に販売されている切り花は、生産段階で野菜よりも多量の農薬を使われていることが多いのです。
もちろん、生産者さんの考えや花の種類によっては農薬を使わない、もしくは使う必要がなく、無農薬で生産しているものもあります。(生産者さんにとってはそれが自然なので、わざわざ「オーガニック」という記載をしていない商品なんかもちょこちょこ流通していたりします。)
オーガニックフラワーについて調べているうちに、肌が敏感な人や薬品にアレルギーがある人の中には“お花屋さんに立ち寄ることができない” なんて方もいるということを知りました。
もしかしたら少数派かもしれませんが、花が好きでも、綺麗だと思っても近づけない人もいるということ。
これは結構ショックなお話でした…。
この農家さんは、主にオーガニック野菜の生産と堆肥づくりの講師として、国内外さまざまな機関のサポートをしています。もちろん畑でオーガニックフラワーを生産されていますが、この農家さんの話はまた別の機会にしたいと思います。
生産者から知ったオーガニックフラワーですが、今回の記事ではそんなオーガニックフラワーを販売されているお花屋さんをレポートしていきたいと思います。
実は、名古屋の中心部でもある栄に、オーガニックフラワーが買えるお店があるのです!
栄で買える!オーガニックフラワー
「オーガニックフラワー」と聞くと、なんだか山間部や田舎町に行かないと買えないのでは…なんて勝手なイメージが湧いてしまったのですが、矢場町駅から徒歩3分。日常で、お買い物帰りにも買えるのです。日本に50店舗ほどしかないオーガニックフラワー取扱店が、こんなにも身近に存在していたなんて!
オーガニックフラワーを生産されている三重の農家さんからのご紹介で、今回は長年オーガニックフラワーを販売されている「種から根っこと葉っぱ」の内山さんにお話を聞いてきました!
――今日は宜しくお願いします。10年ほど前からオーガニックフラワーの販売を始められたそうですが、きっかけはなんだったのでしょうか?
内山:花屋で勤めている中で、自身のアレルギーや花粉症の症状がひどくなったことがきっかけでした。職業病かな?と思いつつも、ある日、鉢物の生産者さんと話をする中で、農薬についてのお話をお聞きしたのがきっかけで、自分でも色々と調べ始めました。
まずは、野菜の残留農薬や加工食品に使われる化学物質など、自分の日常生活の中で取り込んでいるものが原因かもしれない、と、まずは食べ物を変えました。そうすると、次第に症状が改善されていきました。
その後大学の教授にサポートしてもらいながら、環境や健康についての勉強会を開催したり、自然農について学びながら活動する中で、花もオーガニックが選べたらいいのに…と調べ始めたのがオーガニックフラワーにたどりつくきっかけだったと思います。
この頃は無農薬で花を栽培している生産者はいないかといつも探しまわっていて、花市場でも少し変な目で見られていましたね(笑)。すぐにはたどり着くことができなかったのですが、引き続き自然農の勉強会に参加する中で、ついに出会ったのが三重の農家さんだったのです。
登壇されていた野菜農家さんに、「自然栽培のお花はないのですか?」と質問したところ、その登壇者ではなく、後ろで公演を聞いていた方が「僕、やってますよ」と。それが、三重の農家さんでした。
この出会いから、オーガニックフラワーを仕入れ、店頭で販売することが出来るようになりました。
――初めてオーガニックフラワーを扱ってみてどんな発見がありましたか?
内山:びっくりしたのが、きちんとしたオーガニックフラワーは「活けた水が腐らない」ということです。
このオーガニックフラワーを作っていらっしゃる農家さんは、堆肥づくり、土作りを長年研究されて来た方。オーガニックフラワーを販売する前には、その農家さんのところへ研修に行きました。肥料が間違っていると、土も腐り、水も腐る。その土で育った野菜も花も、腐敗が早くなってしまう、ということをそこで学びました。
そしてついに店内にオーガニックフラワーが並び、しっかりと説明のポップもつけてスタートしたのですが…正直な話、最初は誰も興味を示さなかったですね。
当時はまだ「オーガニック」というものが今よりも浸透していない時代。オーガニックではなく、やはり綺麗な花から売れていくのです。どちらかというと、素朴な花が多いオーガニックフラワーはなかなか売れない時期が続きました。
――当時は理解が得られず、大変な時代だったのですね。10年ほど経って、今はどう変わりましたか?
内山:徐々にではありますが、今はオーガニックフラワーを求めて来てくださる方や選んでくださる方が増えてきました。
今も継続している活動として、これまでにお花に限らず、オーガニックというくくりで映画祭を企画・運営したり、オーガニックフラワーの任意団体を運営して勉強会を開催したり。
オーガニックや環境に関してのイベントや勉強会を重ねて行く中で、知ってくださる方も増え、少しずつ広まってきた気がしています。
――最初は見向きもされなかった中でも、辞めずに続けてこられたからこそ、今私たちが選択できる場所があるのですね。これまでに辞めようと思われたことはないのですか?
内山:ないですね。私自身もオーガニックフラワーを求めていましたし、偶然機会が私の元に来てくれたので。
もちろん、お店ではオーガニックフラワーだけを販売しているわけではなく、通常の花も一緒に販売しています。なるべくわかりやすいようにポップをつけて工夫していますが、お客様が選ぶことができる場でありたいと思っています。
――オーガニックフラワーをどんな人に届けたいですか?
内山:特にですが、子どもと接している人に届けたいですね。
知人から教えてもらったことなのですが、生まれた時から家にお花を飾っている家庭で育った子どもは、色彩感覚や感性が豊かになるそうです。あまりそういうことを気にかけていらっしゃる方はまだ多くない気がするのですが、家庭でお花を一本一本大切にしてくれる人に届けて行きたいですね。それがオーガニックだと、さらに嬉しいです。
――なんだか感動してしまいました。最後に、内山さんにとって、お花ってどんな存在ですか?
内山:私にとって花はいつも、ワクワクさせてくれる、寄り添ってくれるような気がする存在です。
花は自然体。この向きにしたい、というこちらの希望はまるで聞いてはくれませんが、ちゃんと付き合うと、花が行きたいところを教えてくれます。自らところを得てるなぁ、と感じ、花たちに日々感謝しています。
――ありがとうございました!
取材が終わり、店内を回っていると、お花だけでなく原種の種やオーガニック、フェアトレードの商品がたくさん並んでいることに気がつきます。
お話ししている最中、ずっと感じていた「やさしい心地」。それはこの店内が、内山さん自身の考え方や学ばれて来たことが自然に形になったものだからなのかな、と感じました。
普段のお花選びに、「オーガニック」という選択肢を提供してくれる「種から根っこと葉っぱ」。
人や環境のことを思いながら、お花のことだけでなく、たくさんのことを発信して来た内山さんだからこそのお店に是非一度訪れてみてください!