斜陽
二十歳。秋。
産まれてきた事をずっと後悔している。
才能など無い。数學、文學、音樂、
何においても駄目だった。
人間としての優しさ、向上心などもどこかに置いてきてしまった。私は不良になれない。
ひとりの愚者がこの世に居るぞ。だが、そいつはもう時期消えるぞ。
世界に咆哮するつもりで窓を開けると、何処からともなく咖喱の匂いがした。
急いで窓を閉める。そして少しだけ泣いた。
覚えたばかりのアルコールは、私に目眩を与えた。
いっそのこと、この目眩で全て忘れてしまえ。
まぁ、そんなことは出来るはずもなく。
外では夕日が燃えている。
影だ。自分の影だ。
死ぬときはこいつも一緒なのかと思うと、妙に気持ち悪く、だが愛おしく感じた。
得体の知れない憂鬱やぼんやりとした不安も、いつかは色褪せて昔話になってしまうのであれば。
この絶望が思い出になってしまうのであれば。
そうなる前に、潔く死ななければならない。
外ではネオンが光っている。
星を模して作られた、眩しい眩しい光である。
こんなに世界が煌めいているのは、私に星を見せないようにする為なのか。
恋とは革命であるが、もし、恋というものが革命などではなく別のものだとするのであれば、私には何にも関係がない。
しかし、これが現実である。
覚えたばかりのメンソールでは、涙を抑えきれなかった。
姉さん だめだ 先に逝くよ
いつか言われたことがある。いや、自分の影がそう言っただけかもしれない。
川原の石がぶつかり合って丸くなるのと同じように、我々も雑踏の中を生きていけば幸せに辿り着くのだと。
分かっている。大量の影に飲まれた苦しみが幸せへと変わってしまうのであれば、そんなものは要らない。
10月。死ぬなら今だ。風が優しく押した。
朝
夜
朝
夜
朝 夜 朝 夜 朝 夜 朝 夜 朝 夜
11月。冷たい風は両肺と両目を刺した。
死ねない。
誰にも知られず誰にも見られずただひとりで。
透明になったつもりで死ぬつもりではあるのだ。
いま世の中で一番美しいのは犠牲者であり、せめて、その犠牲者のためにはどうしてもそうしなければならない。
そうやって幕を閉じなければならない。
ほら。明日が今日になっていく。また絶望が始まるのだ。
御早う。
5.20
全ての敬愛を込めて。
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