『君とゆきて咲く~新選組青春録~』 第9話「斬り捨てられた愛」

 間者の疑いをかけられた渋皮が姿を消し、動揺を隠せない隊士たち。一方、謁見の場にも現れない芹沢に、松平容保は不信感を示す。ついに鵺野から軍資金を強請り取ろうとした上に屋敷に火をつけた芹沢に、決意を固めた土方。そしてついに血で血を洗う戦いの幕が開く……

 渋皮が「間者」として捕えられ、どんよりした気分で終わった前回。表向きは「実家に帰された」とのことですが、視聴者を含めて南無之介以外の誰もそんなことを信じるはずもなく(とかいって、本当に帰ってて後で出てきたら笑う)、上から下まで微妙な表情が並びます。
 自分が渋皮と庄内が顔を合わせていたことを証言しなければと悔やむ原田、それぞれの情報は隠さず共有すべきと原則論を語る沖田、目的のためには非情になることも必要と告げる斎藤――二年生組も三人三様ですが、同期がこんなことになった一年生はさらに重い空気が流れ、特に大作は罪悪感から吐き気が止まらないというのが妙なリアリティです。

 とはいえ、これで容保公の懸念も晴れた――と思いきや、こんな状況で謁見の場に現れず、最近は尊王攘夷派と宴会をしているという芹沢に容保公はご不興。山南のナイスフォローも無に帰すご乱行に、土方のピリピリぶりがこちらにも伝わってきて、周囲はさぞかし居たたまれなかったことでしょう。
 そんな中で、芹沢に直接訴えた近藤ですが、芹沢は俺と土方、どっちを選ぶといきなりな質問。近藤に対して「混沌の中でお前は輝く」とか言い出すので、俺は闇だとでもいうのかと思いきや、光は真っ直ぐにしか進めねえ、というのは、なるほどと思わされます。さらに、土方は何があってもお前を信じる、それはお前にとって毒になる。いつかお前はあいつの求める正しさにがんじがらめになって溺れると――未来人かこの人!?

 しかしさすがに芹沢のこの語りを理解せよというのも無理というもの。そして芹沢が、以前新之丞を拉致監禁した商人・鵺野(まさかの本人再登場)から千両を強請り取ろうとして、拒まれれば乱暴狼藉、火までつけたとなれば、もはやどうにもできません。かくて、突然現れた柄の悪そうな連中をお供に、花街から「博打を打ちに行ってくらあ」と格好いいことを言って屯所に帰ってきた芹沢の前に、抜刀した土方・沖田ら隊士が並び……

 というわけで、いきなり八月十八日の政変やら大坂力士乱闘事件やらをすっ飛ばして(大和屋放火は、鵺野邸放火がそれに当たるのでしょう)、芹沢の死が描かれたので、不意打ちを喰らったような気分になった今回。その辺りは七話から八話の間にあったのかもしれませんが、そんなことよりも、「芹沢=寝所で暗殺」というこちらの固定観念を打ち壊す展開に仰天であります。
 ――といいたいところですが、原作では宴会の場で数々の愚弄にブチ切れた丘十郎に斬られる(こちらの芹沢は昔ながらのヒューマンダストで、丘十郎は沖田並みに強い)という、これはこれで斬新な展開だったので、むしろ本作の方が新選組ものとしては真っ当な展開なのかもしれません。

 しかし本作の芹沢は、暴力的な空気は漂わせつつも、むしろそれ以上に先が見えすぎる策士として描かれて来ました。その描写は今回特に強く、この先の時代が混沌の時代であると見越し、その中での生き残るために尊王攘夷派にも接近し、はては会津から独立しようとすらしていた――ほとんど未来から逆算したような行動ですが、しかし仮にこの路線が成就していれば、その後の歴史は全く変わっていたかもしれない、魅力的なifでしょう。
(結局清河八郎のやろうとしていたこととあまり変わらないのでは、というのはさておき)

 そして本作の芹沢も、おそらく天狗党での経験を経ているのだと思えば、主家というものに頼らず、武士という存在に拘泥しない彼の行動の根底にあるものが理解できるように思える――というのはもちろん牽強付会ですが、少なくとも近藤を嫌いながらも共にあろうとし、生き方を変えさせようとした芹沢が、本気で近藤と新選組を導こうとしていたことは間違いないでしょう。
 問題は絶望的に言葉が少なかったために、いや言葉になったとしてもそれを理解できる人間がいなかったことですが――ラストの剣戟シーンでの、いや自分に立ち塞がる者たちの中に近藤の姿がなかったことを知った時の、哀しげな表情が印象に残ります。(そしてここでサブタイトルを見ると!?)

 「てめぇらの正しさのために邪魔になるもんはこれから全部斬ってきんだろ! 薄っぺらい誠だなあ!」と、仲良しムードの面々に思い切り正論という名の冷水をかけて退場した芹沢。ほとんど最終回直前のような盛り上がりでしたが、しかし前回どころではないインパクトの大きさに、この先の隊士たちが気遣われます。
 特に、龍馬や父の言葉を思い出す丘十郎の行く末が……


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