宣告
三限が終わりトイレにでも行こうと廊下に出た。
理系に進んでしまったのはやはり大きな過ちだったなぁなんてぼんやりと思いつつ高校3年の冬も終わりに近い。
風を遮る物が何もない田畑の真ん中にポツンと突っ立っているこの校舎の冬は殺人的だ。
校舎が古いのも相まってガタガタと激しくまるでポルターガイストかのような揺れをドアや窓がみせる。
絶え間なく続くポルターガイストが廊下に響き渡る。
廊下には自分以外にも何人かの生徒が出ていてトイレに向かったり廊下のロッカーに教科書をしまったり、友達と話していたり、10分という限られた時間を有効かどうかはわかりかねるが、それぞれが消費していた。
廊下の最奥である6組の教室から女子の3人組が出てきた。
あ。
その女子3人組を見た瞬間、正確にはその3人組の内の1人を見た瞬間、反射的に目を背けてしまった。
誰にも見ていた事を見られてはいないよな…?何食わぬ顔で当たりを見渡す…大丈夫みたいだ。
1週間に1通。
これは3人組の中の1人である僕の彼女と僕がやりとりしているLINEの数だ。
絶妙的に空いてしまった本来は見える事の無いこの距離を現実で見える様にしてくれたかと思う程に…僕らの関係と比例してこのLINEのやりとりも減っていく。
いや、このLINEの頻度を「僕らの関係」の指標にしているだけなのかもしれない。
「どうしてだろうな」
誰にも聞こえない声でボソッと呟いてみた。
僕は彼女の事を全く知らない。
2年の頃に1度、告白して1ヶ月、3年になって告白して半年。7ヶ月もの期間、形式的にではあるが付き合っていて未だ僕は彼女の事がわからない。
2年の頃、他に好きな人がいるという理由で1度フラれて、でもそもそもフラれる思っていて告白したから、付き合って貰えただけラッキーだったかもしれないし、でも結局諦めきれず3年の夏にもう1度告白をした。
意外な事に彼女は僕ともう一度付き合ってくれた。
ただ半年後、気が付けば付き合っているなんて事は自分のただの妄想で彼女は僕の彼女ではないんじゃないかと思う程になっていたし、証明できるものも何も無かった。
自分がどれだけ相手の事が好きでも、付き合えたとしても、どうしようもならないなんて残酷すぎやしないか?
「おい、大丈夫か?」
トイレに行く事も忘れぼんやりと突っ立っていた僕を同じクラスの友達が心配して声をかけてきた。
「そういえばお前の彼女、推薦で大学決まったらしいな、おめでとう。」
その一言だけを残して彼は教室の中へと去っていった。
「キーンコーンカーンコーン」
衝撃を受けた。
今さっき彼女を見ていたことを見られていたかもしれないという事もそうだが自分の彼女が推薦で大学に合格したなんて、知らなかった。
「キーンコーンカーンコーン」
…。
まさかこんな形で終わりを告げられるなんてな。
授業の始まりのチャイムとは裏腹に僕らの関係は終わってしまったみたいだ。
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