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ポエム帳

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酔っぱらったときに書きます。
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2015年5月の記事一覧

AM3:00以降のベル

 深夜三時に目が醒めて、それから寝付けなくなった春。星は出ていたはずだけれど、カーテン越しに差し込むほどでもなく、夢は見ていたけれど、覚え書きにも記せないほど曖昧で、ただ君の寝息だけが床に天井に染み入って優しかった。私は布団を抜け出して薄手のパーカーを羽織った。
 県道708号沿いの、夜にはためくヨットのように、薬屋の黄色い旗は闇を掻き混ぜ、そうして店先の自販機の並びが小さな昼を作っている。私はそ

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海と眠る

 君はポカリスエットの口をひねりながら八月の、由比ケ浜は青くうねった。それでいて朝焼けは、とうに水平線に姿を隠していたし、さりとて夕焼けには急ぎ過ぎた時刻であったから、ぼくは真っ白な午後零時の、土踏まずにさえ張り付く砂の、混じった星の数をかぞえる。そうして真昼は、照りつけられてもだえたやどかりの仰向けに、潮風を寄越して去る。
「ねえ、ちょっと、お兄さん。」
 張りぼて小屋の簡易椅子の上で、たちこめ

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時計のないバーで

「もしもあの頃に戻れるなら。」
 そんな嘘みたいな話があるはずない。あるはずなんてないけれど、あなたはまるで素面の顔で、そんな名前のカクテルを、私に教えてくれたのだから、
「タイムマシン。」と一言で、グラスに色のないお酒。
 口をつければ舌がしびれて、目がまわり、胸がぼうっと燃えるよう。ゆらゆら揺られて、流されて、歳月は壁中に貼られたジグソーパズルのように私を困らせる。

 目覚めた場所は向日葵畑

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夜はひとりがいいんです

   撰ばれてあることの
   恍惚と不安と
   二つわれにあり
            ヴェルレエヌ

 太宰の本を開いて閉じた。それを読むには私はあまりに酔い過ぎていた。また、夜が来たぞ。私は選ばれずに今日まで来た。時には選ばれたこともあるけれど、選ばれ損なってまた夏が来た。かつて私がはしゃぎ回った畳の部屋は、今では母親の仕事場になっているし、妹をあやしたあのベビーベッドは誰かの元へ行ってし

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春先の

 春の模様をテレビで観ながら春とは季節だけの名詞ではないのだと思った。人が宴をしている時に、私は自室で一人酒。連休最後の日とあって、取り立てて何かするでもなくしんみり過ごそうというのは私の性格からして明らかなことであった。午前中にAmazonの受け取りを済ませてから近所のスーパーへ買い物に出かける。車中で村下孝蔵を歌おうとするけれど、昨日のカラオケの被害でまだ声が出ない。スーパーで購めた安売りの鶏

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海へのゆき方

 飲み疲れて目醒めたら、もう朝焼けだった。そんな晩が二度つづいた。
 五分遅れた時計が六時半を示していて、私は慌てて風呂を沸かす。交換したての真新しい給湯器のリモコンは、追い焚きのボタンを押すと嬉しそうな声で鳴いて、ランプを灯す。飲み残しのウイスキーをシンクへ捨て、今はまったく生真面目な私であるが、酔いどれの晩にはまたそれを惜しむことを知りつつも、氷の溶け切ったその上で一度ぬるくなったようなウイス

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