海と眠る

 君はポカリスエットの口をひねりながら八月の、由比ケ浜は青くうねった。それでいて朝焼けは、とうに水平線に姿を隠していたし、さりとて夕焼けには急ぎ過ぎた時刻であったから、ぼくは真っ白な午後零時の、土踏まずにさえ張り付く砂の、混じった星の数をかぞえる。そうして真昼は、照りつけられてもだえたやどかりの仰向けに、潮風を寄越して去る。
「ねえ、ちょっと、お兄さん。」
 張りぼて小屋の簡易椅子の上で、たちこめる焼きそばのにおいに誘われたぼくの瞳を、突き刺す小麦色のレディ。
 潮騒孕んだヨットの二等辺三角形が北西から南東へと流れ進み、ぼくは苦手なはずの数学の計算問題を砂浜に思い浮かべて解き明かし、それは波にさらわれてまっさらに戻ってしまう。ええ、そうしているうちに夜だ。君の目が妙に煌めいていると思ったら星が出ていた。花火が夜に散って陰鬱な余韻を残す。そうした仄暗さは夏を磨いた。鈍く光って金色の夏。君の腰骨の辺りに認めた星の砂は、それから官能、二つの脚の付け根には、それもまた二等辺三角形。
 右へ左へ目眩した夜は暗闇の淵に艶かしい音楽を流しっぱなしにする。夢は花火の焼け跡に見た。朝陽はセンチメンタリズムもなくホテルの部屋の小窓から。軋みもしないベッドのバネは、汗を吸って海の香りをさせる。朝っぱらから飲む麦酒、オリオンの栓に指をかけて、乾杯、ここは、渚だ。

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