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絵本を手にとると

遅めに起きた日の朝、
顔を洗って、化粧水をつけて鏡を見た。ふとある人のことを思い出した。

「水分量が違いますね」

 

今年の1月3日のこと、

 お正月で実家に帰っていたけれど、三ヶ日ともなると特にすることもなかった。いつもの休日と変わらず、とりあえず本でも読もうと外に出た。

 私がよく行く本屋の中でも、蔦屋書店は特に好きだ。
 専門的な本や、小説は少ないけれど、
 表紙が見えるように配置してある本が多くて、
 他の本屋では目につかなかった本に、出会うことができる。

 それに、行ったことがある人はわかると思うけど、なんとなく居心地がいい。
 落ち着いた時間の流れの中に、重厚感と静寂を感じる。
 まるでどこかに巨大な樹が、忍んでいるよう。

 ぐるぐる歩いていると、
 展示コーナーで、絵本が置かれているのが目に入った。(タイトルは忘れてしまった)

 この少し前に、ある絵本を読んで、感動したことを思い出して、
 たまたま目についたこの本も読んでみようと思った。
(ちなみに、オリヴァー・ジェファーズ「ほら、ここにいるよ」という絵本)

 「その本ってどこにありましたか?」
 溌剌として明るいけど、大人びた声がした。

 顔を上げると、20代前半ぐらいの女性の方だった。

 「ここにありましたよ」
 「ありがとうございます。この絵本ってすごく絵が綺麗ですね」
 「綺麗ですよね」

 まさか声をかけられると思ってなくて、内心びっくりしていた。

 「最近絵本を読むのにハマってて、えんとつ町のプペルって読んだことありますか?」
 「すみません、あまり知らなくて」
 「普段あまり本は読まないんですけど、友達にお勧めされて、絵本なので読んでみたら、すごく面白かったんですよ〜。」

  スマホで調べて、その絵本の画像を見せてくれた。
  普段読む本の話にもなったところで、気になって。

 「今おいくつか聞いてもいいですか?」
 「2△歳です。えっ、おいくつですか?」
  外見だけの情報で、自分がいくつに見えるのか。出来心で、
 「いくつにみえます?」
  と聞いて見た。
 「そうですね…20歳くらいですか?」
  ぴったりと言い当てられてしまった。

 「前まで、美容のアドバイスをする仕事をしていたのですが、今は転職して営業をしているんです。」
 「やっぱり若い方は、肌の水分量が違いますね」
 

  それから、出身地、大学、スキンケアの方法など、話題が流れるように回った。
  仕事で営業をしている大人だ、と改めて感じた。
  間を感じさせず、深い共感と興味を感じた。
  本当に自然だった。

  10分くらい話し込んだ。
 
  そろそろ連れがいるのでと前置きのあと、
 「おすすめの絵本があったら、また教えてください」
  と連絡先を交換して、
  私も、
 「スキンケアで悩んだら、またご連絡しますね」
  と返した。

  その方らしい、ビールをもって歯をだして笑っている写真のアイコンだった。

  いい出会いをした。
  けれど、なぜ声をかけようと思ったんだろうと、疑ってしまう自分がいて、
  おすすめのの絵本を紹介しようと連絡をしようとして、悩んで、悩んで、悩んでやめた。
  
  

  朝化粧水を肌につけていると、
  肌の水分量って大事なんだなと、ふとこの日のことを思いだしたりする。


  好きな本を読んでいる人がいたら、声をかけてみようかな。
  不審がられても、いいから。


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