御園悠喜

前に進めなくなった時 再び歩き出すためにとある森を探求しようと決めた璃乃(アキノ)の物…

御園悠喜

前に進めなくなった時 再び歩き出すためにとある森を探求しようと決めた璃乃(アキノ)の物語 実験的記録をストーリーに変換していきます

最近の記事

翳に沈く森の果て #5 家

 「数十年。人生の中で古い時代のことは正直言ってはっきりと覚えていることが少ないかも・・楽しいことが少なかったのか、いつの間にか重苦しい記憶が楽しい記憶の上に堆く積み上がってしまったから埋もれてしまったのか・・?」璃乃がそう言うと、 「古い記憶、思い出せることはある?」繭は肘を膝に乗せ足元を見ていたが、少し顔を上げて星々のような幽光が映し出すまるで蛇の大群のように重なり合っているうねりや枯れ草を見つめて言った。 「とにかく・・父親がね。なんかめちゃくちゃだったね。」と言う

    • 翳に沈く森の果て #4 繭

       璃乃(アキノ)は眠っているような気がしていたが、なんだか土やカビの匂いとひんやりと湿った空気を薄っすらと感じ始めていた。 「痛い」  周りを確認したところ、日光のような光はほとんど感じられなかったが、目が慣れてくると、どうやらもしこの場所が明るかったなら視界にあるものはほとんど木の根や蔓や蔦で覆われているのだろうと想像できた。なぜか僅かに見える景色を全力で感じようとする生存本能が最大限に働いるようで、このサイズ感は何となく「絶望的だ」と察した。さすがに璃乃はこんなに恐ろ

      • 翳に沈く森の果て #3 幼

         考えてみると、璃乃は小さい頃は活発で、男の子と公園で遊ぶような女の子だったが、小学生の頃に何も自覚症状がないのに内臓の不調で入院し、体育の授業や風邪を引くことなどを禁止され、夏休み丸々入院しなければならなかった年があった。その期間の記憶はほとんどなかった。 一つだけ、夏休みの宿題の工作でログハウス風の貯金箱を病室で作ったのを覚えている。父がカッターナイフでカットできる薄い木材を用意してくれたのだ。ものづくりが好きだった璃乃は創作って楽しいと感じていたのを思い出した。  「そ

        • 翳に沈く森の果て #2 錘

            今日は璃乃の誕生日だ。だから特別。そして今年の誕生日はまた特別だ。少し遠いけれどお墓参りに行こうという予定以外は特に何もなかった。   二年くらい前から、璃乃(アキノ)は何かがずんと身体全体を重くしていて、やりたいこともやるべきことも、全部進めたいのに進められない。心も重すぎて全部が間違っているような気がして、頑張りたいのにできない。頑張りたいのにどうしても手も足も、頭も心も進めなくなってしまっていた。どの問題からどう手をつけていけばいいのか。あらゆるものが飽和してしま

        翳に沈く森の果て #5 家

          翳に沈く森の果て #1 月

           (今日は月が見当たらないな?)    璃乃(アキノ)は昼夜を問わず、時々ベランダから空を眺めることが好きだ。今日も家のベランダから見える範囲の直線的な夜空に月を探していた。いつか何かの投稿で見かけた家庭向けの天体望遠鏡で撮影したという写真を見て驚愕したのを思い出した。とても小さくぼんやりとではあったけれど璃乃の知っている木星や土星の輪がきちんと映し出されていたのだ。自分の目で見ていたわけではないのに、レンズを覗いている気持ちになっていたのか、ああ本当に・・と言う想いと同時に

          翳に沈く森の果て #1 月