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【連載】家船参加作家 / CLIP.4 柳本悠花インタビュー | 家船特集

作品「家船」は多数の作家と地元住民、様々な協力者によって共同制作されている。この作品への参加作家が個人では普段どのような活動や制作をしているのか、レビューとレポート3月号「家船特集」を皮切りに、各人へのインタビュー記事を連載形式で掲載する。
今回は柳本悠花へインタビューを行った。

柳本_自画像

柳本悠花(やなぎもと ゆうか)
1990年、高知県生まれ。裁縫美術作家。
武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。

(聞き手=KOURYOU)


ー柳本さんの今までの活動や作品についてご紹介いただけますか?

柳本:日本の失われてゆく風景や建造物をフェルトなどを用いて、ぬいぐるみや刺繍として作品化しています。
流れる様に土地が失われる。そして、人々の記憶からも消える。自分の記憶からも、徐々に消えてしまうかもしれない。そんな些細な土地との関係性を作品に起こすことで何か繋がりを留めておきたいと思っています。
布地で作るために歪んだ形でしか残せず、その様自体が失われたものを完全に取り戻す事は出来ないもどかしさの表現になっている気がします。

ー私が初めて拝見した作品は、柳本さんの地元高知の風景をすごく小さなぬいぐるみにされたものでした。その後は高知以外の土地についても作品を制作されていますよね。

柳本:2015年のカオス*ラウンジ新芸術祭 市街劇「怒りの日」では、「天狗の住む街」という作品を発表しました(図1)(図2)。福島県の薄磯地区に取り残され、仮設住宅に住まわされた天狗の神様をモチーフに、山を削り山を起こす過去から現在までの、終わらない開拓を立体化したインスタレーションです。「山を起こす」と言いましたが、福島には昔「ズリ山」という炭鉱のガラで出来た山が沢山あったそうで、そのズリ山をモチーフにした作品も数点ほど配置しています。

柳本図1

図1 カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」
展示作品「天狗の住む街」 撮影=rhythmsift


ー「天狗の住む街」で作品化されていた仮設の神社は、東日本大震災で以前の風景が失われた後に柳本さんが目にされた新しい建造物だと思います。柳本さんが慣れ親しんでいる土地以外をモチーフにする時に意識している事などありますか?

柳本:震災に関していうと、私は出身が高知県で、物心ついた頃から南海大地震がいつ起こるかわからないという恐怖を持って育ってきました。ただ、震災のその後について考えたことがなかったので、東日本大震災後、被害のあった土地に出向き、東北で起こったこと、特に人災について知った時の脅威は忘れられません。もし南海大地震が起こったら、東日本大震災における「震災後」が自分の故郷にも起こってしまう。タイムリミットが近づいているので、震災後を生きる場所や『今』を隠れてしまう前に留めておきたい気持ちがあります。

柳本図2

図2 カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」
展示作品「天狗の住む街」ー津波と復興土地区画で削られた土地ー 撮影=柳本悠花


ー柳本さんは瀬戸芸2016にカオス*ラウンジで参加されていたので、女木島の「家船」制作中にその時の経験を教えてくれてとても有難かったです。瀬戸芸2016に出品された作品についてご紹介いただけますか?
柳本:観光地化で薄く消えかけてしまった、女木島やその周辺に残る物語をもう一度掘り起こし、残った古道具たちを元に編み直す作品をつくりました。(図3)(図4)

柳本図3

図3 瀬戸内国際芸術祭2016 「鬼の家」(女木島)2016年
展示作品「豊玉依姫大明神鳥居」他 撮影=柳本悠花


ー豊玉依姫神社の鳥居をモチーフにした作品を会場の古民家入口に、展示全体の門のように設置されていましたよね。どのような意図で制作されたのでしょうか?

柳本:女木島やその周辺の島のことについて調べていると、神社、地名、伝説に、山幸彦と豊玉姫命の物語が多いことを知りました。その中心は男木島なのですが、女木島には豊玉姫の妹、玉依姫がいて、玉依姫の物語がある。例えば、玉依姫を海の国へ連れ帰ろうと迎えに来たワニは待ち続け、石になった今も、女木島の裏手(西浦)で姫を待っている。山幸彦と豊玉姫命の物語の他にも、密やかに伝わる伝承や人々のこれまでの暮らしや事件や祭りもあり、この島を作って来た証が生きている。しかし、私たちに馴染み深い神話やおとぎ話の島であるにも関わらず、この島の物語は素通りされていた。
豊玉依姫神社の鳥居を同じ様に復元し、形を起こすことで、この島の中の会場の中でそれぞれの物語を再演できる様に、鳥居はその境界として入り口に設置しました。

柳本図4

図4 瀬戸内国際芸術祭2016 「鬼の家」(女木島)2016年
展示作品「荒多大明神」 撮影=柳本悠花


ー「家船」では柳本さんご自身が家船に住んでいた娘だったら…という設定で作品制作していただきました。ちょうど日本神話について調べられていて、教えていただいた神の家系図などから「家船」の重要なアイデアが沢山生まれていったと思っています。どのような興味から日本神話を調べられているのですか?

柳本
:日本神話やおとぎ話は、お話は似たようなものでも、その土地によって語り口が違っていたり、その土地にしか登場しない神様や妖怪がいたり、その土地を知るために一番分かりやすい地図のように思っています。まずその場所を知りたいと思った時に私はその場所の神話やお話を探します(図5)。ただ一節の唄だけでも、土地の歴史や土地柄、人の営みや性格などが遺伝子情報のように染み出てくるのが、面白いですね。

柳本図5

図5  おとぎ話「桃太郎」の鬼退治発祥の里、香川県高松市鬼無町にて 2017年 撮影=柳本悠花


ー初期の小さな作品から変化して、最近は実寸大に近いような大きなぬいぐるみ作品を制作されている印象があります。

柳本
:2017年のReborn-Art Festivalでは、会場に実際にある看板を実寸大のぬいぐるみで作りました。(図6)震災を乗り越え、幾代の人々の支えになった歴史さえも、時代と人の手に抗うことができない様を、実寸大のぬいぐるみ作品を無理矢理自立させることで表現した作品です。
また、同年開催のカオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇「百五◯年の孤独」では、廃仏毀釈の歴史さえも埋もれ、宙ぶらりんとなった墓たちがコンクリートに埋められた様子をそのままぬいぐるみにした作品を作りました。(図7)

柳本図6

図6 Reborn-Art Festival 「地球をしばらく止めてくれ、僕は映画をゆっくり観たい。」展示作品 「日活パール座の看板」2017年 撮影=柳本悠花

柳本図7

図7 カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇「百五◯年の孤独」
展示作品「いつまでもここから動けない」2017年 撮影=柳本悠花


ー実寸大に近いぬいぐるみ作品を作られるようになったのはどうしてなのでしょうか?
柳本:場所の記憶やその時の感情を作品に閉じ込めたい思いから、風景を作品にしているのですが、どうしても小さな作品だとそこに即座に乗り込めないというか、同じ場所に立つことが難しい。第三者目線でしか見られない様な気がして。実寸に近い状態であれば、その土地に行った感覚をその場所に行かずとも感じられる、その場所に立てるのではないかと思い、作り始めました。(図8)

柳本図8

図8 卒業制作展 2014年 撮影=柳本悠花


ー仮設住宅や無縁仏など、失われていく風景のモチーフから、現実に存在する拠り所のない建造物などにモチーフが変化されているように感じます。何か意識されている事はありますか?

柳本:風景のモチーフを作品にしているのは、一つとして、見た記憶を忘れない様に、外付けのアーカイブとして作ってます。とはいえ、それだけでは収まらない感情も増えて来ました。自分自身、無機物や存在しないものであっても、そのものに感情移入しやすいというのもあり、震災後に回った土地では悲しいことを知ることも多かったです。「カオス*ラウンジ新芸術祭2017」で出した作品は、被害に遭ったもの自体を主役にして、理不尽なことをされている事実を突きつけ、煽っている節もあります。

ー個展で拝見した鏡の作品は、これまでの柳本さんの仕事と違う試みをされていて印象的でした。

柳本
:ありのままの土地の様子を記録として残しても、記憶から消えると嘘臭いものになるという感覚があります。土地を乗せた鏡で自らをそこに写しても、虚構臭さが消えない様子を展示しました。(図9)

柳本図9

図9 個展「さまようむこうがわ」2017年 ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ 撮影=柳本悠花


ー「家船」制作のため海民を調べていたら「えびす(蛭子)信仰=人間に似てるけど違う不完全な神様=人形」という見方を、伝承にお詳しい観光家の陸奥賢さんに教えていただきました。柳本さんが制作された実寸大の桶や食器等の作品(図10)(図11)が家船をえびす様にしてくれたなと思っています。

柳本:元々、布地を素材に作品作りをしていたり、昔ながらの土産物屋や博物館にある手作りのジオラマやごっこ遊びのオモチャに惹かれるのは、そういう本物に近い虚構に興味があるからだと思います。本物になり切れない本物に近いもの。現実と虚構が入り混じる事で、自分の立ち位置さえもあやふやになる。普段考えている事をKOURYOUさんの作品の中で表現できたと思います。

柳本図10

図10 「家船」作品の一部。フェルトやプラスチックで作られた実寸大の桶。 撮影=KOURYOU

柳本図11

図11 「家船」作品の一部。写真中央左、布製の皿を柳本が制作。「家船」に配置された本物の食器を模したもの。 撮影=KOURYOU

柳本最後

「家船」作品の一部。配置された家財道具。 撮影=KOURYOU

TOP画像:撮影=KOURYOU


レビューとレポート 「家船」特集 / 第10号(2020年3月)