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神輿も人も泥まみれになる平方のどろいんきょ

埼玉県上尾市で7月に開催されている「平方(ひらかた)のどろいんきょ」に行ってきました。2023年も行ったのですが、泥と水が飛び交い参加者も見物客も泥まみれになる珍しさと、地元の方が温かく親切にしてくださったことから、去年のどろいんきょが終わった瞬間から2024年も訪れようと決めていたお祭りです。

昨年の写真も交えながら紹介します。


江戸時代の宿場町「平方宿」

どろいんきょが行われる平方は荒川に接する地域で、江戸時代には船渡で渡河していました。江戸時代初頭から平方河岸が整備され、年貢米など様々な荷物が集まるようになりました。そして「平方宿」と呼ばれるようになり、埼玉県北東部から川越・多摩へ抜ける運送の中継地点となったそうです。

平方は大きく4つの地区に分かれますが、どろいんきょが行われるのは上宿地区です。

上宿地区のどろいんきょ

どろいんきょの歴史

どろいんきょは上宿地区の八枝(やえだ)神社の祇園祭の中で行われる行事です。明治時代には八枝神社の祇園祭は、平方の上宿以外の南、下宿、新田地区合同で行われていました。「八枝神社日記」の明治42年のページにはどろいんきょで転がす「隠居輿」の修繕に関する記述があることから、このころにはすでに実施されていたと推察されています。いつから始まったかは調べてもわかりませんでした。

右が隠居神輿

八枝神社の祇園祭で、どろいんきょを含む神輿渡御を行うには、平方の四地区の合意が必要で、合意が得られた年だけ行われていました。
しかし、大正12年を最後に四地区合同での神輿渡御は行われなくなり、神輿渡御もどろいんきょも地区ごとに小規模に行われる程度になったそうです。

こうした歴史がありながらも、上宿地区では昭和48年に祇園祭の中でどろいんきょを本格的に復活させました。
昭和57年には上尾市指定無形民俗文化財、平成23年には埼玉県指定無形文化財に指定されています。

コロナ禍の間は中断され、2023年に4年ぶりの開催となりました。今年は参加者も見物客も去年より増えていました。

参加者の盃

どろいんきょ

開始前にお祓いや、関係者の挨拶などが行われます。

お祓い

お山出し

はじめに、お仮屋(神楽殿)から神輿と隠居神輿を担ぎ出す「お山出し」が行われます。花火と若衆頭の合図でお仮屋に勢いよく駆け寄り、神輿と隠居神輿を担ぎ出します。
それまで静かに行われていた儀式から一転し、勢いと熱気が瞬時に最高潮になります。

お山出し

神輿と隠居神輿を担いで境内をぐるぐると練り歩き、神輿、隠居神輿、お囃子の順番に鳥居を出て、渡御が始まります。

境内を歩く様子
渡御

どろいんきょ

どろいんきょが行われる場所では、地面にあらかじめ水が撒かれていて、さらに浴びせるための水が貯められています。
どろいんきょと開始と同時に隠居神輿を転がし、周囲の人が水をかけます。

隠居神輿を転がす様子

隠居神輿を転がす力強さと飛び跳ねる泥、勢いよく浴びせられる水が弾ける様子は非常に迫力があります。

水しぶき

隠居神輿の転がし方は、押して引いて横に転がす、逆さにして回転させる、垂直に立てて倒すなどいくつか方法があり、行事が転がし方の指示をしています。

隠居神輿

隠居神輿を垂直に立てて倒す直前には、トンボと呼ばれる担ぐ部分の間を人が通り抜けます。

トンボガエシで人が通る

そして、この位置でこのまま見ていると…


こうなります。

倒れてくる隠居神輿
盛大に跳ねる泥

この位置で見ると頭から泥を被って全身泥だらけになるので気をつけましょう笑。
しかし、どろいんきょで跳ねた泥を浴びると、家内安全、無病息災、悪病退散のご利益があると伝えられています。見に行くからには遠くで眺めるよりも、少しでも泥がかかる位置で見るといいでしょう。

どろいんきょは子どもたちも参加します。みんな元気で力強く、大人と同じ隠居神輿を扱う姿はたくましく見えます。

子どものどろいんきょ

ひょっとこ踊り

どろいんきょの最中に余興としてひょっとこ踊りが行われます。
隠居神輿を垂直に立て板を置き、その上で踊りが披露されます。踊っている間は隠居神輿がゆっくりと回されます。

ひょっとこ踊り(2023年の写真)

山車の引廻し

神輿しか見てないし山車なんてあったっけと思いますが、荒川近くまで運ばれた隠居神輿に模様替えが行われ山車になります。

模様替え中

山車が完成すると役者がその上に乗ります。神輿を立てているだけで車輪はないため、バランスをとりながらゆっくりと引っ張られます。

山車の引廻し

山車の引廻しは見物客も参加できます。

山車の引廻し(2023年の写真)

お山納め

渡御を終え、最後は再び八枝神社のお仮屋(神楽殿)に戻されます。
しかしすんなりと納まることはなく、納めようとする者と、それを止めようとする者で、何度か押しては返されを繰り返します。

お山納め

攻防が続き、神輿を担いでいる人からは「早く納めたい!」という声がありつつも(たぶん神輿が重くて疲れている)、最後までみなさん楽しそうでした。

ついには鳥居をくぐることができ、無事お仮屋に納められました。

お山納め

最後は平方締めという手締めで終了です。

手締め

終わる頃にはみなさん全身泥だらけです。この記事を読んでいただければ、この祭りが「奇祭」と呼ばれている理由が分かると思います。
激しく神輿を転がし、水をぶっかける様子は荒々しくも見えますが、保存会の方々や参加者、地元の方々は皆温かく、来年もまた来たいと思わせてくれるお祭りです。この先もずっと残って欲しいですね。

今年は2回目ということで、昨年撮影した写真をプリントして前日に寄贈しました。いい写真と言ってくださって嬉しいです。

保存会の方々

どろいんきょ当日には、昨年写真を撮らせてもらった方や話をした方に声をかけるとみなさん覚えていてくれて、一年ぶりで会うのは2回目なのにもっと前から知っているような懐かしい感覚になりました。
写真も見たよと言ってくれて写真撮ってて良かったと感じました。
少し驚いたのが、昨年は個々に声をかけて撮影させていただいた方たちが、家族や親戚だったことです。親戚や家族、恋人を紹介してもらい、今年は一緒に撮影させてもらいました。
どろいんきょの奇抜さが目立ちますが、地元の方の関係性と人柄の良さに惹かれて、来年も足を運びたくなるお祭りです。


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