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『まちづくりの思考力』明治大学藤本穣彦ゼミナール メンバーの門出 

実生社の越道(こしみち)です。
まちづくりの思考力ー暮らし方が変わればまちが変わる』を2021年に刊行して、はやくも2年がたちました。食べることと暮らすことのつながりを考え、そしてそこからどう、自分の暮らすまちの未来を描いていくのか、各地でのフィールドワークを土台に対話を通じて考えるという11の章からなるこの書籍。

まちづくりを考える糸口を、地元学、リサイクル堆肥化、小水力発電、ケア的思考……といった様々な切り口から繰り出してくる本書は、著者の文体のあたたかさもあいまってこれまでにない手触りの書籍に仕上がっています。派手な本ではないのですが、おかげでじわじわと手に取っていただく方が増え、この春に重版を予定しています。

著者の明治大学政治経済学部、藤本穣彦先生のゼミでは、このテキストを思考のトレーニングの素材として用い、ガッツリ読み込んでいただいています。

テキストを読み込んでくださった学生さんたちが巣立たれるとのことで、2024年1月20日の卒論&修論発表会にお邪魔してまいりました!


卒論&修論発表の日

いよいよ発表開始。

この日の発表は12名です。大学生が11名、大学院生が1名。

短い時間で自分の卒論・修論を発表しないといけないのですが、制約があります。

それは「問い」ではじまって「(下級生へ)手渡したい問い」でしめくくるというもの。

これは、発表者は毎年入れ替わるけれど、学生さんたちの関心は重なることがあり、その縦のつながりをつくっておこうという藤本先生の考えによるものだそう。フードロスやフードバンクなどのテーマには毎年、関心をもつ学生が多いとのことです。

この日のために卒業生のみでなく、2年生からOB・OGまで40名ほどが参加していたことも、縦のつながりを大事にする藤本ゼミの性質をあらわしているようでした。

①大迫さんの発表 孤食をポジティブな体験にするには

孤食をポジティブに

一人での食事場面も増えるいまの社会において、食体験をポジティブなものするにはどうすればよいか考えた発表。
アンケート調査により、楽しい食事は人と一緒にする以外にも、食への意識が高まることで可能になることを述べられました。そのためには、やはり食育が大事だということも含まれていました。

「自分が食べることが未来をつくる」という意見がとても素敵でした。

下級生へ手渡したい問い:フードデリバリーの未来はどうなるのか?

②相庭さんの発表 医療現場の食からみる「豊かさ」―食事摂取困難な人にどう向き合うか

発表の流れ

入院時の病院食など、経口摂取ができなくなったときの食事の体験を調べ、豊かさとは何かを考える発表でした。

食べることが豊かさを感じることにつながり、それが自分の意思により生き方を選び取っていく自由を感じ取ることにつながるという、
ふだんは何気なく食べていたこともそれができなくなることで重要性に気がつくのだと思わされました。

下級生へ手渡したい問い:より日常的な食事以外の栄養摂取方法について(サプリメント、完全栄養食、プロテインなど)、健常者が食事以外の方法で栄養を摂取することから、 食事の意義を問い直してみてほしい。

③森下さんの発表 チェーン店のもつ革命生と危険性

チェーン店のもつ革命性と危険性

外食チェーン店についての発表でした。

事例研究として「スーパーサイズミー」を題材に、またインタビュー調査がもとになっています。

「スーパーサイズミー」はアメリカのドキュメンタリーであり、製作者のモーガンが 30日間、3食全て、マクドナルドで販売される商品を食べ続ける話

チェーン店は子どもをもつ家族づれには欠かせない存在。共存しながらも、食べすぎることの危険性など食育の重要性を述べました。

下級生へ手渡したい問い:大手企業の根本的な考え方や動き方を変えるには何が必要か?

④三村さんの発表 日本のフードバンクの継続的な運営に必要なもの

日本のフードバンクにフィールドワークに行き、以下の問いを立て考えるものでした。

三村さんの問い

三村さんが調査した3つのフードバンクは、経常収益の約半分が寄附金となっていました。
社会問題の解決のための存在であるフードバンクに真剣な関心を寄せられていたことが印象的でした。

下級生へ手渡したい問い:様々な面から気づく「フードバンクの運営に必要なこと」とは?

⑤野際さんの発表 陸上養殖の取り組み

「食べることが大好き」だからゼミに入ったという、野際さん。
岡山県西粟倉村のエーゼロ株式会社によるウナギの陸上養殖の取り組みについて、事例研究を発表されました。従来の海面養殖の場合は場の制約を受けるものの、陸上養殖はそれを払拭できる面があるそうです。

卒論とは直接関係がないけれど、北極海での釣りに参加

また、卒論完成後は北海道に赴き、北極海での釣りも体験したそうです。その写真を以下に。ゼミに入りたての下級生たちが、日本中をフィールドにする先輩の姿に自分もそのようにできるのかなあと、つぶやいていたのが印象的でした。

下級生に手渡したい問い:「自然」「人間」「とること」の三者の関係性っていったい何なのだろうか?人間にとって「とること」はどういった価値があるのだろうか?

⑥宮﨑さんによる「エコシステム産業論」の振り返り

宮崎さんは卒論の発表というわけではなく、
2023年に外部講師を招聘し開講された講座を、ワードマイニングを使って重要キーワードをピックアップされながら紹介されました。

豊かなくらしとはどのようなものか、心を起点に経済をとらえる方法を提唱される講座です。

マインド×インダストリー=マインダストリー

⑦若園さんの発表 幸せになれる食卓とは

全ての人が「幸せになれる食卓」とは?
「理想の食卓」と「良い食卓」の間には何がある?食の力を最大限に活かし続けるために

若園さんの問い

若園さんは、幸せになる食卓について考えました。まず考察を加えたうえで、1週間、ヴィーガン食を作る実践をおこないました。おいしそうな写真でしたが、このメニューをつくるための準備等で、一日中食事について気を張って考えている状態だったそうです。

1週間ヴィーガン生活

心と体の健康をかなえる理想を起点に、「自由な食卓」をつくるという視点でしめくくられていました。

下級生に手渡したい問い:今の自分にとっての「理想の食卓」・「倫理的に良い食卓」とは?

⑧成川さんの発表 食の記憶がつくりだす食事観 

食の記憶がつくりだす食事観
~今後大人に求められる食育とは~

成川さんの問い

畑でとれた野菜で給食を作るなど、食育の実践に力を入れて取り組む「はぐみな保育園」へのフィールドワーク、インタビュー調査にもとづき考えました。

はぐみな保育園へのフィールドワーク


「食育は大人の問題でもある」、また「食べることは生きること」という意見に共感しました。

下級生に手渡したい問い:
時代の変化による若者の「食が広がる経験」の違いとは
個人のライフステージの移り変わりによって食意識はどのように変化していくのか

⑨北条さんの発表 郷土料理の継承

郷土料理をどのように継承していくか、がテーマの発表でした。
栃木県では、「しもつかれ」という郷土料理で町おこしをしているそうです。
中学生へのインタビュー調査のほか、実際に作ってみて考えてみました。

「しもつかれ」を実際に作る

郷土料理の継承には、子どものみならず大人への食育、実際に作る経験が必要だということでしめくくられていました。

下級生へ手渡したい問い:
ゆとりを持つとは?そのためには何が必要だろうか。

⑩松田さんによる、「3期2年間の協同学習をふりかえって」

最後のしめくくりは、松田さんによるもの。藤本ゼミでの2年間は、問いを立て、対話し、またそれ以外の学びもつなげていくという循環であり、「協同学習」が連続するものだったといいます。

そこで得た学びを、松田さんは要素に分類して発表されました。

協同学習を体系化した図

図の中心に据えられている「フィールドワーク」と「暮らし」、そして「経験」と「五感」は、すべての部分に通じている部分だそうです。それらの軸を通じて、社会を考えていくことになります。

自分の目で見て、耳で聞き、肌で感じる。ダイレクトで刺激的な経験は、全ての学びを支える土台になっていたはずです。

松田さんのスライドより

2年間を締めくくるにふさわしい力強い発表で、感銘を受けました。


おわりに

発表を聞きながら、学生さんがいかにテキストを深く読み込まれたかを感じてジーンとしました。このように、実際に本がどのように受け入れられるかという経過にまで立ち合うことができて、編集者としてとても嬉しく思いながら、京都に帰ってまいりました。

フィールドに赴き、調査をし、また自分で作ってみて、食べてみて……苦労されたとは思いますが、その五感を使いながら考えて学んだ経験が、みなさんにとってかけがえのないものであり続けることを祈っています。

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