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静岡大学訪問記 『まちづくりの思考力』をめぐる対話

2022年10月1日、静岡大学でシンポジウムが開催され、小社刊行の『まちづくりの思考力ーー暮らし方が変わればまちが変わる』の内容をもとに座談会とワークショップが開かれました。

静岡大学で、「チャレンジ2030」というプロジェクトというプロジェクトを立ち上げるにあたり、まちづくりへの理解を深めるとともに、より多くの方に知ってもらうためにプレイベントとして企画されたものです。「チャレンジ2030」プロジェクトの狙いは、静岡大学と地域社会の2030年の「ありたい姿」を描き、学生以外にも地域の多くの人を巻き込み、実現可能なまちづくりを考え、実現していくこと。同大学未来社会デザイン機構が主催するもので、学生、教職員、地元企業やNPO、自治体の方々が手を取り合っていく予定だそうです。

座談会には、静岡県松崎町長の深澤準弥さん、
NPO法人POPOLO事務局長の鈴木和樹さん、
鈴木林業の伊藤さの子さん、
同大学情報学部・未来社会デザイン機構教授の吉田寛さんが登壇され、
そして著者の藤本穣彦さん(明治大学政治経済学部)がコメントされました。

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座談会の様子
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著者の藤本穣彦先生

ファシリテーターを務められたのは、未来社会デザイン機構副機構長の竹之内裕文先生。
竹之内先生が提示された「この本をどのように読み、どんなことを考えたか。どんな疑問、異論を抱いたか。この本をどんな人に届けたいか」の3つのテーマをもとに、それぞれの考えを語りあうという内容でした。

登壇者の方々はそれぞれ、場所や分野は違えど、まちづくりの最先端で行動されている方々です。

深澤さんは、伊豆半島南部に位置する松崎町の職員でしたが、2021年から町長をつとめられています。

「まちづくりとは何か、自分の中でも答えが見つからなかった。地域の活性化だ、人口が増えることだなどと簡単に言われるが、人口減少は止めることはできない。
これまでは国の施策に振り回されていたが、思考すること、思い考えるこという視点に出あうことで、考える方向性をリセットさせられた」
(深澤さんの発言より)

たしかにこの、『まちづくりの思考力』という本の内容は、「年間○万人が訪れる」だとか「経済効果○億円」だとか、いわゆる「まちづくりの成功」として語られるようなきらびやかさとは、縁が遠いのです。

まちづくりで重要なのは場所ではない、動いた金額でも、人数でもない。
「自分の頭で、考えること」なのだという著者のメッセージを、それぞれの方々にくみ取っていただけたように思い、担当者として嬉しかったです。

後半では、前半で語られた内容を土台に、グループに分かれてまちづくりについて思うことを話し合うワークショップの形式で参加者は対話を深めました。

シンポジウムの司会を担われた、同大学人文社会学部2年生の小森史靖さんは「チャレンジ2030」のメンバーのひとり。小中学生向けの放課後の学び場づくりに奔走するなど、地域と積極的に関わられています。小森さんの行動力と、自らの思うまちづくり論がとても印象的でした。

「ふだんの行動は自分中心のものとなり、『私』という主語で語りがち。しかし、『私たち』で語れるような営みを、今後増やしていきたい」(小森さんの発言より)

ほかにも、以下の発言が興味深かったです。

「いまの時代は、買う/使うという価値観で判断する場面が多い。
しかし本当におもしろいことは、自分の力でできること/つくることだと思っています」(藤本先生の発言より)

「つくることは手間やコストもかかるし大変だけれど、そのおもしろさを共有できればまちづくりが進むのでは」(吉田先生の班のグループ討論の結果より)


書籍を刊行させていただき、教室いっぱいの方々に書籍を読み込んでいただき、考えていただき、感想を聞かせていただく経験はかけがえのないものでした。


地域と連携する静岡大学のチャレンジの行方に注視していくとともに、本書がまちづくりの現場でじわりと存在感を発揮していくことを、期待しています。

                        実生社 越道京子

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