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僕の好きなアジア映画75: オマージュ

『オマージュ』
2021年/韓国/原題:오마주/108分
監督:シン・スウォン(신수원)
出演:イ・ジョンウン(이정은)、クォン・ヘヒョ(권해효)、タン・ジュンサン(탕준상)ほか


活況を呈する韓国の映画界において、女性監督の存在は未だその作品のレベルに相応しい状況にあるようには思えません。素晴らしい作品を撮った後、第二作目〜三作目とキャリアを積み重ねることができているのはイム・スルレ監督と、本作のシン・スウォン監督くらいでしょうか。個人的にシン・スウォン監督の映画は、あの鮮烈な『マドンナ』以来これが2作品目です。しかしこの『オマージュ』はそれとは全く肌触りの違う映画です。

主人公は中年の売れない女性映画監督。数々の映画やドラマで主として脇役として素晴らしい演技を見せている名バイプレーヤーのイ・ジョンウンがその役を務めています。

満足に映画が制作できない状況の彼女に、1960年代に活動した韓国初の女性監督が残した映画の、欠落した音声を吹き込むという仕事が舞い込みます。しかしその作業を進めていく過程で実は音声だけではなくフィルムの一部が欠損していることに気づきます。その失われたパーツを求め主人公は、彼女の航跡を訪ね歩きます。

その女性監督が仲間たちと通っていた喫茶店、映画編集者、その映画を過去に上映していた映画館などなど、その映画に関わった人々、彼女が関わった人々を訪ね歩き、ついに欠損したパーツを見つけ出し修復を果たします。

過去を追い求める行程は、忘れ去られていた人々に光をあてることであり、また老いてもなお今を生きる人に邂逅することでもあります。現在は過去の延長線上であり続け、決して切り離すことはできません。過ぎ去ったものに再び命を与えることは、今をも生きる道標ともなり得ます。それをただのノスタルジアと言い捨てることはできません。主人公は女性監督の足跡を追い求めその目的を完遂するとともに、自身の映画への愛情を再認識することになります。

この映画は恵まれた環境とはいえない中、韓国の女性監督のパイオニアとなった一人の映画監督へのオマージュであり、そして今を生きる女性監督たち、さらにいえば映画を愛するものたちへ捧げられた美しい思いに溢れた作品です。

フィレンツェ韓国映画祭審査委員賞、第15回 アジア太平洋スクリーンアワード 最優秀パフォーマンス賞、大鐘賞が注目した視線賞


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