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僕の好きなアジア映画50: マドンナ

『マドンナ』
2015年/韓国/原題:마돈나/121分
監督:シン・スウォン(신수원)
出演:ソ・ヨンヒ(서영희)、クォン・ソヒョン(권소현)、キム・ヨンミン(김영민)、ピョン・ヨハン(변요한)

夏目深雪編「韓国女性映画 わたしたちの物語」で取り上げられていたシン・スウォン監督の作品。


「女性の生きづらさ描いた」という軽い言葉では到底表すことが出来ないほど、好きな映画というのが憚れるほど、凄まじく深刻で悲惨な物語である。

主人公は病院のおそらくは看護助手(診療行為はしていないので)と思われる女性。担当する富豪の患者は意識もなく、心臓移植を必要とする状態だが(まあ医学的にはこの状態で移植をすることは全く不可能だが、そこは映画ということで)、彼が死ぬと遺言で全ての財産が寄付されてしまうため、息子はなんとしてでも延命のための手術を求めている。

息子はその病院に運ばれてきた意識不明(その後の状態を見れば脳死状態ではない)、身元不明の妊婦から臓器を移植しようと考え(描写としては組織適合性などをちょっとおざなりにしてしまった感はある)、主人公に同意書を準備するよう命じる。

息子は愛の不時着の耳野郎ことキム・ヨンミン。今回は人でなしだ(笑)

お金のためにその取引を引き受けた主人公は、妊婦の過去を追跡していく。

妊婦は「マドンナ」と呼ばれていた。

そこから浮かび上がってきたのは「マドンナ」のあまりに不幸で悲惨な過去であった。ルッキズム、いじめ、貧困、低学歴、パワー・ハラスメント、セクシャル・ハラスメント、レイプ、望まない妊娠、不当解雇、そして結局娼婦に身を落とす事に。男尊女卑社会は韓国では日本よりさらに厳しい(日本もまだまだけど)という。女性はいまだ社会的弱者であり続けている。明らかになっていく「マドンナ」の過去。しかし実は主人公もまた衝撃的な過去を抱えていたことが明らかになる。

厳しい映画ではあるけれど、しかし女性監督であればこそ描き得る視点というものがこの映画にはあって、男性目線では決して描ききれない切実な思いがある。いかに男性社会が横暴に振る舞っても、新しい生命を育むことができるのは結局女性だけであり、「マドンナ」は自身の命と引き換えに、ただ一人彼女を愛してくれるであろう生命を、唯一の希望を産み落とす。かなり衝撃的な映画なので、観るものを選ぶかもしれない。

第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門招待作品


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