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僕の好きなアジア映画29:リトル・フォレスト 春夏秋冬

『リトル・フォレスト 春夏秋冬』
2018年/韓国/原題:리틀 포레스트/103分
監督:イム・スルレ(임순례)
原作:五十嵐大介
出演: キム・テリ(김태리)、リュ・ジュンヨル(류준열)、ムン・ソリ(문소리)、チン・ギジュ(진기주)

都会の生活に疲れ目的や居場所を見失った人間が、生まれ故郷の自然の中で自分らしさや生きる目的を取り戻していく、というコンセプトは(失礼ながら)正直陳腐だと思うし、むしろ画一的な発想に思える(僕には)。僕自身大都会は嫌だけど、自給自足的な田舎の生活にも全く憧れがない。というか寒いのも不便なのも基本的に嫌だ。中途半端な地方都市で、適当に楽しみもあり生活もしやすい、という環境の方が好きなので、この主人公の気持ちに実は共感はしていない。また僕はコミックというものを全く見ない。だから本作の原作がどういうものなのかも全く知識が無い。

しかしここで描かれる故郷は実に美しくのどかで、生活の不便さもあまり露わには表現されない。また農作業の過酷さも不安定さも過度に深刻に描かれることはない。またその逆に都会での孤独な生活も必要以上に悲惨な形で誇張されることもない。

故郷には昔からの友人がいて、昔ながらの付き合いに自然に戻ることができる。ストレンジャーになることはない。だから失踪した母親とのちょっと不思議なエピソード以外は、帰郷しての暮らしに違和感はない。基本的にはフワッとした映画だと思う。

この映画の最大の魅力は、主人公が作る季節の収穫を材料としてた料理の数々である。例えばこの花を使ったパスタ。

春を感じる花パスタ

そのほかにも自ら栽培し収穫した旬の材料を使った、実に美味しそうな料理が登場する。「白菜のチヂミ」、「コチュジャンのすいとん」、「餅ケーキ」、「お好み焼き」、「キャベツのサンドイッチ」、「ジャガイモパン」、「アカシアの天ぷら、春菊の天ぷら」、「きゅうりの豆乳スープ」、「トッポッキ」、「タマネギ焼き」、「クレーム・ブリュレ」など、果ては「マッコリ」まで作ってしまう。伝統的な韓国の味から多国籍で斬新なものまで、主人公が手際よく作り上げる。

これらの料理の数々が美味しそうなだけではなく、実に美しい。ムン・ソリが演じる母との思い出の味でもあるのだ。

ムン・ソリとキム・テリ。この二人はパク・チャヌクの『お嬢さん』でも共演。

映画として心が動かされたとは言えないのだけれど、これらの料理には魅了された。ネット上にもこの料理の動画などがあって、多くの人が興味を持ったようだ。「食」の映画としては出色だと思う。それでも僕は、こんな料理を食べたいとは思っても、こういう生活を送りたいとは思わない。無粋ですみません。


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