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【感動する英文法】絵本「ずーっとずっとだいすきだよ」で学ぶ最高の比較級と過去完了

ハンス・ウィルヘルム作の絵本「ずーっとずっとだいすきだよ」(英題:I'll Always Love You)は、比較級と過去完了を学ぶのに最高の教材だ。

でも授業で使う時は注意が必要だ。ストーリーを知っているのにも拘らず、読むたびに毎回涙がこぼれる。こみ上げる思いを落ち着かせるのに時間がかかる。ひどいときは声が詰まり、授業にならないこともある。それでもこの本を授業で使うのは、主人公と犬のエルフィーが、いっしょに育ちながらも互いの成長が違っていくさまを、比較級が愛しむように表現し、過去完了が、過ぎ去った二人の思い出の日々を美しい調べで奏でてくれるからだ。

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<あらすじ>
エルフィーとぼくは、いっしょに大きくなった。年月がたって、ぼくの背がのびる一方で、愛するエルフィーはふとって動作もにぶくなっていた。ある朝、目がさめると、エルフィーが死んでいた。深い悲しみにくれながらも、ぼくには、ひとつ、なぐさめが、あった。それは……。「出典:EhonNavi内、出版社からの紹介」
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<時の流れの違いが切ない比較級>

◆We grew up together, but Elfie grew much faster than I did.
ぼくたちはいっしょに大きくなった。でもエルフの方がずっと早く大きくなったよ。(久山太市訳)

冒頭からいきなり比較級の重要ポイントが書かれている。比較級を強調するときは much を使う。very ではないのだ。

◆The years passed by quickly, and while I was growing taller and taller, Elfie was growing rounder and rounder
いつしか時がたっていき、ぼくの背がぐんぐん伸びるあいだに、エルフは太っていった。

比較級を and でくり返すことによって、程度がどんどん増していく様子を表すことができる。

◆ The older Elfie got, the more she slept, and the less she liked to walk. 
エルフはとしをとって寝ていることが多くなり、散歩をいやがるようになった。

「the + 比較級,  the + 比較級」で「〜すればするほど、より〜になる」という表現。久山太市氏は意訳しているが、「エルフが年をとればとるほど、より寝るようになり、より散歩に行くのをいやがった」というのが直訳。同じ”より”でも more は肯定に、less は否定の意味になるのも分かる。

<思い出が胸を行き交う過去完了>

◆I was very sad, too, but it helped to remember that I had told her every night, "I'll always love you."
ぼくだって悲しくてたまらなかったけど、いくらか気持ちが楽だった。だって毎晩エルフに、ずーっと大すきだよって言ってやっていたからね。

この物語は過去の話なので過去形で書かれている。過去完了(had + 過去分詞)は過去より前の出来事を表す。つまり主人公が、エルフが死ぬ前のことを思い出しているのがよく分かる。

◆I knew Elfie wouldn't have minded, but I said no.
もらってもエルフは気にしないってわかっていたけど、ぼくはいらないって言った。

「would have + 過去分詞」は、過去のその時間よりも前のことに思いを馳せて「〜だっただろう」と推測するときに使う。ここでは「エルフが生きていたら〜だっただろうな」と想像している。

こんな風に文法だけを説明すると何とも無味乾燥になってしまうのに、「ずーっとずっとだいすきだよ」は、比較級と過去完了の文法エッセンスを詰め込みながらも、そんな気配をおくびにも出さずに、感動の物語として何人もの頬を涙で濡らしてきた。

以前、とある女子中学の最後の授業にこの本を選んだ。熱心で、愉快で、時にうるさくて、愛すべき彼女達との授業はいつも賑やかだった。でも最後の時は静かに味わいながら過ごしたかった。大事な彼女達と私の大事な何かを共有したかった。

そこで考えたのが、I'll Always Love You をひたすらいっしょに書き写すことだった。Showa(昭和)と名付けたその授業で、私が使ったのはチョークと絵本だけ。私が黒板に向かってストーリーを書き写し、生徒がそれをノートに書き取る。ただそれだけの授業だった。静寂の中、私が握るチョークの音だけがカタカタと教室に響いていた。

授業も終盤に近づいた頃、背後からズズーッと鼻をすするような音が聞こえてきた。何となく雰囲気は察してたが、うっかり振り返れば私の方が崩壊しそうで、気にしないようにしてひたすら板書を続けた。

チャイムが鳴った。彼女達との時間が終わった。チョークを置いておもむろに振り返ると、そこには涙を拭う生徒の姿があった。私は心の中で、ずーっとずっと大好きだよと言うのが精一杯だった。

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