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キクラゲは街路樹の脅威か?(速報)

■目的

 Twitter(自称X)界隈やニュースで有楽町駅前の街路樹に発生したキクラゲが話題になっています。これについて、街路樹診断を行ってきた樹木医の意見を記述します。なお、速報のため粗削りです。

■結論

 基本的にはそれほど注意が必要なキノコ(木材腐朽菌)ではない。ただ、症状が進行すると倒木や落枝に注意が必要になる。

■キクラゲとは

 キクラゲは、キクラゲ科、キクラゲ属のキノコ(担子菌類)です。ビタミンDが豊富。キクラゲと近縁種のアラゲキクラゲをまとめてキクラゲと呼ぶことが多いです。

■キクラゲと倒木・落枝のリスク

 基本的に、キクラゲは切り株や枯れ木などの既に死んでいる樹木、または枯死した部分に発生するキノコです。大量のキクラゲが発生している場合は、発生している周辺の部位まで枯死が進んでいると推測されるため、倒木・折損のリスクを図るうえでの目安になります。

 逆に言うと、樹木の一部に少量のキクラゲ類が発生しているだけの場合は、その部位が限定的に枯れている可能性が高いです。キクラゲはガシガシと生きた樹木を食べて分解するするわけではないので、発生が少量で部位が限定的であれば、必ずしもそれだけで枝の切除や伐採が必要とは言えません。(後で記述するように、他の徴候と合わせた確認は必要です。)

 筆者が街路樹や公園樹木の診断を行ってきた経験でも、キクラゲはしばしば見られたものですが、必ずしもリスク判定が悪かったわけではないと記憶しています。

■樹木医の対処方法

 今回のように大量のキクラゲが発生しており、腐り(腐朽)が樹体の広い範囲に及んでいると疑われる場合、まず木槌による打診や金属の棒を刺して、腐り(腐朽)の範囲や進行の程度を確認します。その結果によってリスクを判断し、処置を検討することになります。キクラゲがあるというだけで伐採というのはあまりにも過剰な反応です。

*アラゲキクラゲについては、やや病原性が強いようで、幹や枝の中心部分から木部を分解し(幹心材腐朽型)、木はスカスカになって強度が低下しすると言われています(白色腐朽型)。しかし、怖いキノコなので必死に探す必要があるかというと懐疑的です。ここから先は筆者の意見ですが、アラゲキクラゲを含むキクラゲ類より病原性が強く、腐朽の進行が速い危険なキノコは他にたくさんあります。ですので血眼になってキクラゲを探すより、他の危険なキノコに注意して観察をしたり、他の直接的な倒木・落枝の徴候、例えば、空洞、腐朽、樹木の揺れなどに着目してリスクを評価した方が効率的で実務的と思われます。もちろん今回のように大量に発生したキクラゲであればそれも評価に用いてよいと思います。

■感染経路

 なにかの原因で発生した枯枝や傷などに空中を飛んでいた胞子がくっつき、そこから樹体内に侵入・繁殖すると考えられています。

■事前の対策

 木材腐朽菌への感染を予防するには、とにかく傷を作らないことが重要です。太い枝の剪定を控える、太い枝の切り口には薬を塗る、幹焼けによる樹皮枯死を起こさない、樹皮を傷つけない、良好な生育環境を維持する等の予防策が有効です。

■事後の処置

 菌糸と言われるキクラゲの本体は樹木内部に侵入していますから、表面の我々が食べる部位(子実体)を切除しても駆除することはできません。子実体は繁殖器官、キクラゲを樹木に例えると花に相当します。花を摘み取っても樹木は枯れません。キクラゲの子実体を撤去しても、木の腐り方、倒木・落枝に影響はほとんどありません

 樹木に対するケアとしては、リスクの程度に応じて、支柱の設置、大枝の切除などを行い、倒木・落枝のリスクをコントロールします。リスクが許容限度に抑えられない場合は伐採をします。街路樹では難しいですが、木を元気にするために土壌改良を行ってもいいと思います。また、見た目の問題からキクラゲを除去することはあります。

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