愛おしい暮らしのコツ

好きな映画のサントラを聴きながら、文章を書く。寝れない夜は、好きな映画を耳元でかけると安心してまぶたを閉じることができる。何かをプレゼントしたいけれど、とくに理由が見当たらないときは、待ち合わせの駅で花を買って少し照れながら渡す。家でひとりでごはんを食べるときは、必ず自炊をする。雨の日は、家で雨音を聴くに限るし、晴れた日はとにかく散歩が良い。

書いて、書いて、また書いて。それに疲れたら、こころが導く本を手に取り、ひたすらページをめくる。言葉を、自分から湧き出る以外の言葉を。身体に注ぎ込む感覚は気持ちがいい。世界が内側から広がる、そんな景色は言葉でしか見られない。

沈黙になると、なにかしゃべらなければと思うときがある。そんなときはたいてい、話したくもなかった話題が口をつくから無理はしないほうがいい。その人と、だだ居る。その時間がいいのだ。


冬の朝。少しの寂しさが心地いい。そう思えるようになった。去年までの自分なら、寂しい寂しいと喚いていたのに。

落ち着け、と。大人になったのか。

冬がきた。この光の照らし方。遠慮がちな太陽のようす。思わず口角が上がる。外に出て、冬に気づけたのが嬉しい。FUJIFILMのカメラは、シャッターを切るたびに写真を好きにさせる魔法があるのか。着実に吸い込まれている気がする。それでも、ゆっくり、ゆるやかに。目に見えないくらいのスピードで。だけれど。


彼に手紙を書いた。

便箋に、気持ちを文字にして綴り。切手を貼って住所と名前を書いて。それから、ポストに入れた。

数日後、スマホの画面には、ありがとうと文字が浮かんでいた。文字の打ち方だけで、彼の気持ちが手にとるようにわかった少し前の自分と再会。


ふっと、泣いた。そして、ふっと、笑った。

わたしたちはもう、二度と甘い香りを漂わせることはないのだなと。こころにちゃんと沈んでくれた、自分の感情。どこか、ふわふわしていたから。ずっと。

どこか、ふに落ちなかったのは、彼がもうわたしを愛していないという寂しさではなく、わたしが彼を好きだった気持ちを否定してしまいそうだったから。感情が暴れる。ふつふつと沸き起こる気持ち。そうだったのか。ごめんよ、自分。


最後まで残った気持ちは、種だった。次にまた誰かを好きになるための、種。だから好きな気持ちは、大事にしたらいい。そしたらきっと、またちがう花が咲く。でもそれには土を耕さないといけないね。それは自分の、仕事だよ。

今度はひとりじゃなく、相手と一緒に咲かせたいと思う花を、ね。そう思ったとき、わたしは彼にこの先も、ありがとうを伝えて生きる気がした。気づかせてくれてありがとう、と。


まだ、彼に愛されていた香りを纏っていたい。


そう、やっと思えた。だから、やっと前に進める気がした。

前に進みたいときは、手紙を書く。


愛おしい暮らしのコツ。

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